第12話 対面

 エクロのことをアシトに話すことは、不思議とできませんでした。
 彼もエクロと遊んでいました。
 だから陰がエクロであることを彼も知っておいた方がいいと思うのです。
 私はアシトが傷つかないように、このことを言わないのでしょうか。
 違うような気がします。
 私はこの戦いの大切な意味を、自分だけのものにしたいのだと思います。
 結局私は彼にこのことを話さないまま、私たちは陰の拠点に到達しました。
 陰の拠点は、三の町の近くの山の森の中にありました。
 川の水が集まり出来ている湖。
 チャオたちの住処になっていたという場所に、陰はいました。
 黒くなったエクロと、同じく真っ黒な湖。
 それが陰でした。
「待っていたよ」
 エクロは言いました。
「君たちのような優秀な者が来るのを。私の血肉となる者。特に人間のそれが欲しかった。素晴らしい頭脳を持っていたバサクのように」
 バサク博士。
 チャオ研究の権威です。
 彼の頭脳が、陰に利用されてしまったのでしょうか。
「さあ、私にその体を捧げるがいい」
 その声はエクロからではなく、黒い湖から聞こえました。
 しかしお兄様はそんなことに構わず、エクロを射ました。
 矢に貫かれてエクロは湖に落ちます。
 その湖が、蛙の形に変化していきます。
 さらに蛙の頭頂部から、カオスの上半身のような、人に近い形のものが生えてきます。
 そしてその腕が肥大化しました。
 お兄様がまず矢を射ました。
 しかし矢は弾かれてしまいました。
 それだけ体が硬化しているのでした。
 何本か矢を射ましたが、同じ結果に終わります。
「これは辛いな」
 お兄様が言いました。
 これではアシトの剣も通用しないかもしれません。
 陰は大きな腕を振り回して、周りの木をなぎ倒します。
 そうして自分の動きやすい場を作っているようです。
「これは私の出番ですね」
 得意になります。
 この戦いは私のためにあったのだと感じました。
「ラシユはなにかいいカードありますか」
「効きそうなのは、このくらいだな」
 ラシユが見せたカードは、二枚でした。
 一枚は、巨大なクロスボウ。
 もう一枚は城の門や壁を破る時に使われる、これまた巨大な槌でした。
「その二枚であいつの動きを止めて。私が倒します」
「ならそこの木に縫い付けよう」
 お兄様が、一際太く育っている木を指しました。
「じゃあまずはそこに動かすぞ」
 アシトがラシユを抱えて、走り出しました。
 そして自身と陰と大木とを直線で結べる所に素早く移動します。
 陰は、蛙の方の口から舌を伸ばしました。
 蠅叩きのようにアシトを打とうとします。
 アシトは跳んでそれを避けて、ラシユを投げました。
 ラシユは力強く羽ばたいて加速すると、カードをキャプチャします。
 右腕から槌が飛び出すように生えました。
 打撃を受けて陰は大木の方に飛ばされます。
 今度はお兄様の番でした。
 もう一枚のカードをキャプチャして右腕が大きなクロスボウになったラシユに駆け寄ります。
 ラシユの右腕には既に太い矢がセットされていました。
 お兄様はラシユの右腕を僅かに動かして、狙いをより正確にすると、矢を射出しました。 放たれた矢は、蛙の上の人型の胴体に当たりました。
 そして大木に縫い付けられます。
 私は蛙の上に飛び移りました。
 金棒を振り、私は人型の陰の胴体を金棒の先端と大木ですり潰します。
 人型の胴体がちぎれます。
 続いて蛙の陰の脳天を叩きます。
 亀裂が入り、さらに叩くと穴が開きました。
 その穴の周りを叩いて、どんどん穴を広げます。
 そうしていくうちに蛙の体は粉々に砕けました。
 とんだ重労働でした。
 そして残りの、人型の陰も砕いてしまいます。
 終わる頃には、金棒を降り続けたせいで両腕も両手も酷く痛くなっていました。
 もう二度と、戦いたくないと思いました。
 砕いた人型の陰の中に、チャオがいました。
 エクロでした。
 なにか言ってはくれないだろうか。
 そう期待しましたが、エクロは既に息絶えていて、静かに消滅しました。

このページについて
掲載日
2016年12月14日
ページ番号
12 / 13
この作品について
タイトル
お姫様に金棒
作者
スマッシュ
初回掲載
2016年11月29日
最終掲載
2016年12月14日
連載期間
約16日