第9話 協力
少年は私にカードを見せました。
確かに、真実の愛のカードでした。
「姫様のカードは白いですね」
少年にそう言われて気が付きました。
彼のカードは灰色でした。
「本当。どうして違うのかしら」
「姫様は、このカードがどのように作られているのか、ご存じですか」
知らないと答えると、少年は自分の身分を明かしました。
「私はカードの開発者の一人、ロクオです」
「天才少年なのね」
「まあ、そういうことです」
ロクオによると、カードの研究が始まったのは一年前のことだそうです。
「空から、チャオの守護神であるカオスを黒く染めたようなものが降りてきたんです。私たちはそれを陰と名付けました。その陰には、チャオのように周りのものを飲み込む力がありました。しかしチャオと違って、なんでも飲み込んでしまう。人であろうとも。そうして陰は成長し、眷属を生み出します。だから人間とチャオ、そしてカオスは陰と戦いました。私たちは戦いに勝利しました。そして、陰の細胞を手にしたのです。私たちが研究をしたのはそれです」
「じゃあこのカードは」
「はい。その陰の一部、と言えます」
それって物凄く危険な物なのでは。
私がそう思うことを先読みしていたロクオが言いました。
「白いカードについては安心してください。カードの形にする際に、陰を無力化しています。百年後はわかりませんが、少なくとも十年は無害です。そういうふうに安全性を高めるのも、研究のうちでしたから」
「あなたの灰色のカードはどうなの」
「こちらは、白に比べると、はっきり危険です。研究中に作られた試作品なのです。キャプチャしたチャオが意思を陰に乗っ取られる可能性があります」
灰色のカードは研究中に作られた。
それはつまり、私の母はカードを作る実験に使われたということなのではないのでしょうか。
そう聞くとロクオは頷きました。
「実験には、戦闘後に残った陰の一部の他に、陰の細胞を持つ者が使われました。陰の眷属と、そして陰からの攻撃を受けて感染した人間やチャオです。あなたのお母様も、陰に感染していました」
母を複数のカードに分割したのは、母の感染を食い止めるためだったのだと、ロクオは言いました。
カードの形にしておくことで、既に陰に侵されている部分も悪化させずに保存できるかもしれない。
そしていつか感染した者たちを解放する術が見つかるかもしれない。
そういう考えだったのだとロクオは説明しました。
「それで母は?」
「感染を止めることができず、陰の僕となってしまいました。そのまま研究所から脱走されてしまって。申し訳ありません」
ロクオは頭を深く下げました。
「ではこのカードを集めても、母を元に戻すことはできないのですね」
「はい。おそらくもうあなたのお母様は、完全に陰の一部と化してしまっています」
「そう」
私の旅は終わった。
そのような感じがしました。
もう助からないのなら、せめて私が母を殺すべきなのでしょうか。
でもそんな気が起こらないくらい、もう帰ってしまいたいと強く思っていました。
とにかくお兄様とアシトを見つけなくてはなりません。
「ねえ、トルネお兄様と、剣を持った男の人、知らない? はぐれてしまったの」
「わかりません。でも一緒に探しましょう。トルネ様にはお世話になりましたから、そのお礼がしたいのです」
「うん。よろしく」
私たちは二人を探しました。
しかし騒動が起きたらしく、騒がしくなります。
化け物が出た、という声が聞こえました。
「行ってみよう」
私たちは化け物から逃げてきた人たちの言う方へ走りました。
すぐにその化け物は見つかりました。
人よりも二回りは大きくなった、黒いチャオでした。
そしてそのチャオと、アシトが戦っていました。
「あれはまずいです」とロクオが言いました。
「感染がかなり進んでいます」
アシトは苦戦しているようでした。
明らかにパワーで負けていて、剣による攻撃も相手の攻撃を避けながらではいまいち効果がないようです。
「敵の攻撃は絶対に避けてください! 当たればあなたも感染してしまう!」
ロクオはカードを黒いチャオへ投げました。
黒いチャオはそれをキャプチャしました。
すると黒いチャオの右手が鉄球に変化しました。
重さで右手が持ち上がらなくなります。
そして左手には矢が刺さります。
お兄様の射た矢でした。
「今のうちに離れるんだ!」
アシトは私たちの方へ駆けます。
黒いチャオは鉄球になって右手をなんとか持ち上げて、力任せに振り回し始めました。
大振りで避けやすそうではありましたが、破壊力が増したことは明らかです。
どうすればいいのか聞こうとしたら、ロクオはもう一枚カードを投げました。
黒いチャオは懲りずにまたそれをキャプチャしました。
そして黒いチャオの体は爆発して、粉々になりました。
「すげえな」とアシトは言いました。
「アシト君、大丈夫か。攻撃はくらっていないよな?」
「なんとか。あんたたちが助けてくれたからな」
それはよかった、とお兄様はほっとして笑いました。
「これからは、あんなのとも戦わないといけないんだな」
「そう。元凶を滅ばさない限り、この戦いは終わらないんだ」
「なら、早く終わらせないとな。俺たちで」
アシトは、にやっと笑います。
そして私たちは宿に戻るのでした。