第8話 喧嘩

 一の町と三の町に挟まれた位置に二の町はあります。
 この二の町は、平和なように見えました。
 一の町では既に虐殺が行われていて、四の町は休む間もなく避難の指示を出して燃やしてしまいました。
 お兄様もここでは四の町のようなことをするつもりはないようでした。
 ようやく一息つけることに私は安堵します。
 お兄様はまず宿を取りました。
 王国から観光で訪れる王家や貴族のための、最高級の部屋です。
 その部屋は使用人も寝泊まりすることも考慮してかなりの広さがありました。
 宿の最上階が丸々私たちの部屋でした。
 宿屋の者が備品などについて、部屋中を歩き回って案内をします。
 それが終わって、宿の者が部屋から出て行くと、
「どうして燃やしたんだ」とアシトがお兄様に言いました。
「なぜって、それは説明したはずだよ。悪しきチャオたちに町を利用させないため」
「利用されてもいいから、町を残したってよかったんじゃないのかって言っているんだ。あの町の人たちは、帰る場所を失ってしまったんだぞ」
「残したら、守ることなんてできない。不可能だよ」
 疲れを感じさせる声でお兄様は言いました。
 一方でアシトは激しく食ってかかります。
「そんなのわからないだろ」
「無理なんだよ。君はカードを使ったチャオの恐ろしさをわかっていない」
「そのくらいわかってる!」
 お兄様はうんざりした様子で目を瞑ります。
 そして、情報収集に行くと言って出て行ってしまいました。
 アシトは怒ったまま部屋の出入り口のドアをじっと睨んでいましたが、何分かすると、
「俺も出かけてくる。少し一人にしてくれ」と感情を抑えながらも乱暴な感じに言って、部屋から出て行きました。
 部屋には私とラシユが残されました。
「すまん」
 ベッドの上でラシユは私に頭を下げました。
 頭の大きいチャオが頭を下げると、前転しようとしているようにも見えます。
「謝らないでいいよ。あなたはお兄様の指示でやったんだし、ああしなきゃやっぱりチャオが住み着いてしまってだめなんだと思う」
 ショックを受けた心以外は、お兄様のしたことの正しさを理解できていました。
 そんな私の代わりに激情のままに振る舞ってくれた、なんて都合よく解釈して、アシトに感謝いるのでした。
「あの炎、凄かったものね」
 私はラシユの頭を撫でます。
 ラシユは嬉しそうに目を細めます。
 町を一つ消したって、この子はチャオなのです。
 問題があるのは、謎ばかりのカード。
 その正体を知らなければならないと私は思いました。
「色々あったから疲れたでしょ。寝よっか」
 私はベッドに入ります。
 そしてあっという間に眠りに落ちるのでした。

 目が覚めても、二人は帰ってきていませんでした。
 外は暗くなり始めています。
「起きたか」
 ラシユはカードを裏にして並べていました。
「なにしてんの」
「暇だから、透視能力がないか調べてた」
「それで、どうだったの」
「さっぱりだった」
 そうだろうなと思いました。
 暇なので私もやらせてもらいました。
 私にも透視能力はありませんでした。
 けれどラシユに教えてもらって、ラシユの持っているカードの効果を勉強できました。
 過剰な炎のような、強力で危険なカードがたくさんありました。
 大雨の日の川が描かれた、激流。
 複数人で使うような大型のクロスボウ。
 噴火する火山の描かれた、マグマ。
「なんでこんな危険なカードがあるのかしら」
「カードは自然に湧いてくる物じゃない。誰かがカード化したんだろ」
「マグマも?」
「ああ」
「狂ってるね」
 そうだな、とラシユは頷いた。
「それにしても帰ってくるの遅いね」
「帰ってくる気なかったりしてな」
 ラシユは意地悪く笑いました。
「え、困るよ」
「なら探しに行くか?」
「行きたいけど、いいのかな」
「なにが」
「少し一人にしてくれって言ってたじゃん。少し待った方がいいんじゃないの」
「もう十分に待っただろ。寝てたし」
 ラシユに呆れられました。
「あ、もういいのね。じゃあ行こうか」
 私はラシユを抱きかかえました。
 情報収集と言えば、酒場です。
 私が読んできた物語には、そういうシーンが度々ありました。
 お前実は馬鹿なのな、とラシユが言うので軽くげんこつをします。
 酒場にはチャオの客もいて、チャオ用の高い椅子の席も見られました。
 私は早速バーテンダーに話しかけます。
「こんにちは。私、王女のヘネトです。トルネお兄様と、アシトっていう剣を背負った男の子探してるんですけど、来てませんか」
 バーテンダーは目をむいて、私を見ました。
 そして小声で、
「本当にヘネト様ではありませんか。大きくなられましたね」と私に言いました。
「はい」
「お探しのお二方はいらっしゃっていませんよ」
「そうですか。ありがとう。もう一つお尋ねをしてもよろしい?」
「ええ、いくらでもお伺いいたします」
 私は周りの人やチャオにも聞こえるように、ちょっと大きな声で言いました。
「このカード、真実の愛を集めています。なにか知りませんか」
 するとすぐ横でジュースを飲んでいた少年が、
「知ってますよ」と言いました。

このページについて
掲載日
2016年12月14日
ページ番号
8 / 13
この作品について
タイトル
お姫様に金棒
作者
スマッシュ
初回掲載
2016年11月29日
最終掲載
2016年12月14日
連載期間
約16日