第7話 仲間

 次の町の名前は、四の町です。
 チャオワールドへの移住を望む人の増加にともなって作られた町です。
 一の町の近くでありながら、珍しいチャオや木の実がない地域なのであまり重要視されていなかったため、町が作られるのが後になったのでした。
「あそこで作った野菜は格別に美味で、思わぬ収穫だったよ」
「城で食ってた野菜よりもですか」
「うん。チャオワールドは土が豊かなのかもしれないね。どこで作っても質が高いのだけれど、あそこは群を抜いていい。チャオの食べる実の成る木が少なかったことと関係あるのかな」
 トルネお兄様とアシトの会話を聞いていると、お兄様が大変な大食漢であったことを私は思い出しました。
 お兄様がチャオワールドに行ってしまわれた時に、作る料理の量が減ってしまったと、料理人たちは冗談半分に寂しがっていました。
 そのことをお兄様に伝えると、
「そうか。チャオワールドで作った食べ物をそっちに送れないのも、私が食べてしまっているせいかもしれないね」とお兄様は笑いました。
 四の町に着くなりお兄様は町の人たちに避難の準備を始めるよう指示を出しました。
 もしチャオたちに襲われてしまったら、この町にいる兵だけでは攻撃を防ぎきれないためです。
 一の町に避難してもらい、一の町の復興を急ぎながら、いざという時はチャオキーを使ってチャオワールドから離れてもらうという計画です。
 町の人たちは戸惑いながらも、安全のために避難をすることに理解を示してくださいました。
 一般の人はチャオキーを持っていません。
 王国がチャオキーを独占し、人の出入りを管理しているからです。
 そのため彼らは自力でチャオワールドから逃げられないのでした。
 そして入念な持ち物検査が始まります。
 カードを一の町に持ち込ませないための検査。
 予想した通り、暴れ出すチャオが現れました。
 お兄様の射る矢は、一撃でチャオを地に射止めます。
 四の町の兵士がその後でとどめを刺します。
 お兄様の弓の腕前のおかげで、こちらに一人の被害者も出さずに検査は終わりました。
 接収した大量のカード。
 その中に、真実の愛のカードはありませんでした。
 それらを奪還するべく、チャオたちが町に襲いかかってくるかもしれない。
 私の不安に、お兄様は言いました。
「襲ってきてくれた方がありがたい。敵の数を減らすチャンスだ」
 どうやらお兄様は、カードを求めて暴れるチャオたちを殲滅するつもりのようです。
 母のカードを集めたい私には、お兄様ほど敵を倒したいという意思はありませんでした。
 だから戦いを避けられればそれはそれでいいと思いました。
 けれどチャオたちは四の町を襲いました。
 お兄様の作戦によって、そうせざるを得なくなったのです。
 日が沈んだ後、チャオたちに襲撃させるためにお兄様は一枚のカードをラシユに渡しました。
 それはキャンプファイアーの描かれた、過剰な炎のカードでした。
「これでいくのか。なるほどな」
 ラシユは面白がって、笑みを浮かべます。
 そして興奮した様子で、カードをキャプチャしました。
「ようく見てろ。これがカードの力、チャオの真の力だ」
 そう言ったラシユの体が炎に包まれました。
 そして火の玉が噴水のように周囲へ飛んでいきます。
 それらが四の町の家に火を付けます。
 あっという間に、大火事となりました。
 燃える木の弾ける音と共に夜の黒が取り払われていきます。
 その大規模の炎は、祭りを思い起こさせました。
 人がいないのに祭りがひとりでに行われているみたいで、恐ろしくなりました。
 燃えている建物の中には接収したカードの置き場にしている家もあります。
 それで、カードが燃えては困るチャオたちが、身を潜めていた森から飛び出してきました。
「カードを死守しろ!」
 攻めてきたチャオたちは口々にそう叫び合います。
 しかし町に入れば、お兄様の矢とラシユの炎に命を奪われます。
「燃えてしまえ!」
 ラシユは火の矢と化して、燃えながら町を駆け巡ります。
 そして家にもチャオにも火を放ちます。
 炎をぶつけられたチャオからは、ジュウウと蒸発する音が出ます。
 チャオの体は、炎をぶつけられた所が消えて、そこから全身が絶命したことによって消滅してしまいます。
 二人の攻撃を逃れても、カードを手に入れたいチャオたちは燃えている家の中に入っていってしまいます。
 きっと助からないでしょう。
 町も残りそうにありません。
 そのくらい火は町を激しく照らしていました。
 住民たちは数時間前に、四の町の兵士に連れられて、一の町に向かって移動を始めていました。
 空っぽになった町は、チャオたちの根城となってしまうかもしれませんでした。
 それを燃やして、チャオたちをあぶり出すことに利用するのは、利口なやり方なのだと思います。
 だけど四の町の人々の帰る場所が消えてしまいます。
 それをしたのが私たちということに悲しさを覚えます。
 家々を燃やす火の勢いがさらに増して、お兄様が町から出るように言いました。
 町を脱出すると、お兄様は動物を閉じ込めたカードを何枚かキャプチャさせて、ラシユの体の炎を消します。
 振り返ると、町全体が燃えていました。
 町からいくら離れても、町の火に照らされているように感じました。
 チャオワールドの夜を全てあの炎が食らってしまっているみたいでした。

このページについて
掲載日
2016年12月8日
ページ番号
7 / 13
この作品について
タイトル
お姫様に金棒
作者
スマッシュ
初回掲載
2016年11月29日
最終掲載
2016年12月14日
連載期間
約16日