第5話 生き残り

 二匹のチャオが十数人の人を殺したようでした。
 酒場には人の死体が転がっていて、二匹のチャオは鳥が餌をついばむみたいに殺した人の荷物を漁っていました。
 その二匹の姿が、変でした。
 一匹は右腕が剣になっていて、もう一匹の右腕はボウガンでした。
 そして剣のチャオが一枚のカードを見つけます。
「こりゃいいカードだ。岩石だってよ」
 剣のチャオが言いました。
「おい、獲物だ」
 驚愕して酒場の入り口で立ち尽くしていた私たちにボウガンのチャオが気付いたのでした。
「覚悟しな!」
 剣のチャオは獣のように飛びかかってきました。
 私が金棒で剣を受け止めます。
 そしてアシトが横から剣で突き刺そうとします。
 しかしチャオは羽を虫のように激しく使って、その場を離れます。
「危ない危ない」
 剣のチャオは余裕そうに言います。
「剣で突かれたら死んでしまう。普通だったら」
 剣のチャオは左手に持ったカードを見せつけるように前へ突き出しました。
 岩が描かれているカードでした。
 さっき見つけた岩石のカードとやらなのでしょう。
 剣のチャオは、小動物ではないそれをキャプチャしました。
 すると剣のチャオの左腕が変化して、いかにも硬そうでゴツゴツとしている灰色の岩になりました。
「剣じゃ岩は切れないよなあ?」
 剣のチャオはアシトを嘲笑します。
「ボウガンの方、お願いね」
 私は小声で言いました。
 鞄をボウガンのチャオ目がけて思い切り投げます。
 鞄は横回転しながら真っ直ぐ飛んでいきます。
 そして私は剣のチャオの方へ走り、金棒を振りかぶります。
 剣での攻撃を防ぐつもりの動きで、剣のチャオは岩になった腕を頭の前に出します。
 そのミスに気が付いて逃げる時間を与えないように、最大限の力で速く振り下ろします。
 岩は砕けませんでしたが、衝撃を受け止めきれなかった剣のチャオを押し潰すことはできました。
 ボウガンのチャオの方を見ると、私の投げた鞄を避けられず、鞄の下敷きになっていました。
 アシトが念のためとどめを刺します。
「まさかチャオが暴れていたなんてな」
 アシトが鞄を重そうに持ってきます。
 私はそれを受け取り、
「カードも気になるから、生きている人を探そう」と言いました。
「君たち、チャオを倒したのか」
 生きている人でした。
 礼服を着ていている彼は二十代に見えます。
 でも年齢に、そしてこの状況下には似合わない落ち着きようでした。
 物語に出てくる歴戦の名将、というような。
 そんな人、王国にはいません。
「あなたは?」
「俺の名前はトロフ。君たちは危険なようだ。この場で排除させてもらう」
 男はカードを五枚、マジックのように前触れなく取り出しました。
 そのうちの一枚が消えます。
 また体のどこかが岩に変化するのでしょうか。
 私たちは身構えます。
 男の下半身が沸騰した水のようにぶくぶくと気泡を出しながら膨らんでいきます。
 やがて男の下半身は馬車になりました。
 車輪と二頭の馬が出てきたのです。
 男のカードがもう一枚消えて、今度は男の右腕が太く長い槍になります。
 そして男は馬を走らせて突進してきます。
 私たちは左右に分かれて、攻撃を避けます。
 私が移動したのは、槍のある方でした。
 男は突進を避けた私を串刺しにしようと、槍で突いてきます。
 それを鞄で受けますが、大きな槍の質量が響いて私はバランスを崩してしまいます。
 鞄で防げるのでいくら槍で攻撃されても安全ですが、攻撃が続いて体勢が立て直せなくなると防戦一方となって困ります。
 馬に踏み潰されるのも怖いです。
 どうにかして助けてほしいと思った直後。
 アシトが馬車に飛び乗りました。
 剣を振って、男を切ろうとします。
 男の方は馬ごと激しく抵抗して、暴れます。
 私は鞄を置いて立ち上がり、金棒で馬を殴りました。
 馬を両方倒すと、抵抗が弱まりました。
 アシトが剣を男に突き刺します。
 息絶えた男はしおれ、馬車は消え、男もチャオの姿になりました。
「こいつ、チャオだったのか」
 驚いたアシトは、チャオが消えていくのを見続けました。
 そして酒場から出ようとしたら、チャオを連れた男が現れました。
「動くな」
 男は弓を構えて言いました。
 私はその人に見覚えがありました。
「トルネお兄様?」
「む、ヘネトか? そっちはアシト?」
「そうです、ヘネトです。一体これはどうなっているのですか。チャオが人に化けていました」
「まさかヘネト、君はトロフを倒したのか」
 トルネお兄様は弓を下ろしました。
「はい、そんな感じの名前でした」
「よくやった。見事だ。そいつは襲撃してきたやつらの中でも手強くて、取り逃がしてしまったんだ」
「それで、これは一体。カードも。カードをチャオがキャプチャすると、馬車とか武器とかが出てきて」
「カードには、物が封じ込められている。カードになっていれば、チャオはどんな物でもキャプチャできてしまう」
 トルネお兄様は、トロフが落としたカードを見つけると、それらを拾いました。
 そしてその一枚を私たちに見せます。
 カードにはキャンプファイアーが描かれています。
 そしてカードの上部には、過剰な炎、というカードの名前らしきものが書かれてありました。
「たとえばこのカードをキャプチャすればチャオは炎の力を得る。もし人がカードにされてしまえば、チャオが人に化けることもできる」
「そんなカード、今までなかったのに、どうして」
 わからない、とトルネお兄様は言いました。
 突然そのカードはチャオワールドに広まったそうです。
 私たちはトルネお兄様に付いていき、お兄様の兵と共に町の被害を調べました。
 生き残った人は、多くはないようでした。
 チャオたちが取り損ねたカードは回収します。
「お兄様、私のお母様は無事なのでしょうか」
 この被害では覚悟をしなくてはなりません。
「君の母君は」
 トルネお兄様は言いにくそうにしながら、一枚のカードを見せました。
 そのカードには私の母が描かれていました。
 カードの名前は、真実の愛。

このページについて
掲載日
2016年12月4日
ページ番号
5 / 13
この作品について
タイトル
お姫様に金棒
作者
スマッシュ
初回掲載
2016年11月29日
最終掲載
2016年12月14日
連載期間
約16日