第4話 大量虐殺
チャオキーは不思議な力を持った鍵です。
大木に挿すと、挿したところを中心にして水面に波紋が広がるように穴が開きます。
その穴の中に入ると、チャオワールドに行けるのです。
城の庭園に生えている木から、十分な太さの木を探し、私がまずアシトに手本を見せます。
人が一人通ると穴は閉じてしまうので、荷物を先に通します。
金棒と鞄を放り込み、そして穴の中へ入ります。
チャオワールドの森の中に出ました。
上方を見るとチャオの食べる木の実が成っている。
三角の実、四角の実、ダークの実にヒーローの実。
探さなくても様々な木の実が見えて、チャオワールドに来たことを確信します。
そして私の出てきた木の隣の木から、アシトの荷物が出てきます。
出口の方には拳ほどの穴しか開きません。
一方通行ということのようです。
そこから風船のように膨らみつつ人や物が出てきます。
その様が面白かったので私はアシトがその小さな穴から出てくるところを観察しました。
まるで遠近感が誇張されたみたいです。
顔は普通の大きさ、でも脚の方は鉛筆ほど。
先に出した右脚だけが太くなり、アシトもチャオワールドに足を着けました。
そして根菜が引っこ抜かれるみたいにもう片方の脚もこちらに出てきます。
「木の実が凄いな」
「うん」
この森の中を散策してみたい気持ちに私はなっていました。
普通森の中というのは様々な動物がいるために危険なのですが、チャオワールドにはチャオの天敵になるような生き物はいないらしいと聞きます。
安全なら、少しうろついてもいいんじゃないかと思います。
だけどアシトは早く町に行こうという気のようで、コンパスと地図を確認しています。
「こっちのはずだな」
アシトは町のある方に見当を付けると、歩き出しました。
散策は帰りにでもできる。
そう思って後を付いていきます。
私たちは、今自分がチャオワールドのどこにいるか、わかっていました。
チャオワールドと私たちの世界の繋がり方には規則性があるのです。
私の暮らしていた城からこちらに来ると、この森に着きます。
この森は私たちがチャオを初めて発見した場所のために、チャオの森と呼ばれています。
少し歩くと舗装された道に出ました。
私たちの国の言葉で書かれた、道案内の標識も見つかります。
ここが間違いなくチャオの森だとわかります。
そこから標識に従って、町に向かいます。
私たち人間がチャオワールドに作った一つ目の町で、名前もその通りに一の町です。
一の町は王国とチャオワールドとの交易の要となっている町で、どちらの世界の物も溢れるほどにある、大きく豊かな町です。
その一の町が、血に染まっていました。
道にたくさんの人が切り捨てられて倒れているのが遠くからでも見える異様でした。
そして町とチャオの森を繋いでいる道に設けられた関には、兵士たちが血で赤くなった槍を持って町の中を見張っています。
まるで誰一人として逃すまいとしているようでした。
「どうする、やるか?」
アシトは剣を抜きます。
「話は聞いておきたいから、待って」
なにが起きているのか少しでも知っておきたいと思いました。
けれど彼らが町の人たちを虐殺しているのなら、大して話してはくれないのでしょう。
兵士の一人が私たちに気付きます。
すると彼らはあからさまに警戒と殺意の眼差しを私たちに向けてきました。
「一体これは何事ですか」
私は少し離れた所から大声を出して問いかけました。
櫓に立っていた兵が私たちに矢を射ました。
その様子は見えていたので、鞄を盾にします。
矢は刺さらず、折れて落ちます。
この旅行用の鞄は重い代わりに、とても頑丈です。
身分の高い者の護衛が持つことを考えられた鞄なのです。
「話は聞けないみたい」
「ああ、そのようだな」
荷物をその場に放り、身軽になったアシトが駆け出した。
私は鞄を持ったまま同じく走ります。
櫓にいる敵が邪魔なので、私は鞄で頭を守りつつ若干斜めにかかっていた梯子を駆け上がります。
鞄と金棒を二回振り回すと、櫓にいた兵士はみんな片付きました。
すぐに降りてアシトに加勢します。
鎧を着込んだ敵には、剣よりも鈍器の方が攻撃しやすいので、ここは私の出番です。
機敏な動きで翻弄しながらもアシトは注意深く鎧をまとっていない部位を攻撃しようと狙っています。
一方私は持っている物を敵目がけて思い切り振るだけです。
当たれば衝撃が相手を気絶させます。
関にいた兵が全員片付くと、
「とんでもないな、鬼姫様は」とアシトは呆れたように笑いました。
私は自分が倒した兵士を見ました。
鎧の胸の所が、がつんとへこんでいました。
そのへこみようを見て、この人は死んでしまったかもしれないと思いました。
「休んでる暇ないだろ。まだ町の中にこいつらの仲間がいるかもしれない」
アシトの言う通りでした。
人を殺してしまう、遊びでない戦いに戸惑ってはいられません。
助けられる人がいるかもしれない。
トルネお兄様や母が今まさに命を奪われそうになっているかもしれない。
私たちは走りました。