第2話 昔の友人
城にはチャオがたくさん暮らしています。
この国にはチャオワールドへの入り口があって、チャオはそこから連れてきています。
チャオやチャオワールド特有の植物を輸出して外貨を稼いでいたりと、この国はチャオの国として有名なのです。
そんな国のお姫様に生まれたからには、チャオが転生できるようにたくさん可愛がってあげなくてはなりません。
昔は、チャオが天使や悪魔を模した姿に成長するところに目を付けて、人の善悪を判断しようとしたものだそうです。
だけどこの国のチャオ研究の権威、バサク博士の研究によって、チャオは飼い主の性格ではなく飼い主の気分を参照していることがわかりました。
以来人々の関心は、チャオの大人になった時の姿から、転生へと移りました。
深く愛されたチャオは死を迎えた時、消えてしまわず卵に戻る。
そのことが人の愛情を測る術となってしまったのです。
チャオを転生させられた人は人気者になります。
その称号を王家は欲するもの。
だからみんなでチャオを可愛がりまくるのです。
今日はプールで遊びます。
新しい水着をしつらえてもらったので、それを早速着けたかったのです。
「ビキニ、超絶似合ってるな」
なぜかアシトがビーチチェアに寝そべっていました。
しかもちゃんと水着を着けていました。
「なんでいるの。なんで水着持ってきてるの」
「持ってきたんじゃない。スタツさんが用意してくれたんだ」
スタツは、この城で働いているメイドです。
ついさっき私の着替えを手伝ってくれたのもそのスタツです。
「あまりじろじろ見ていると嫌われてしまいますよ」
スタツが私の背後からアシトに言いました。
アシトは先ほどから私の水着姿に釘付けになっている様子でした。
「そうは言っても綺麗な女性が水着を着ていたら見てしまうよ」
アシトが言い訳をしようとするのをスタツは、
「露骨なスケベは最低ですよ。正直ウザいです」と切り捨てました。
「むむ、そうなのか」
「真摯なスケベになるといいですよ。女性はそういう殿方が好きですから」
この人はこの人でなにを言っているのやら。
そう呆れつつ私はチャオたちの待っているプールの中に入ります。
「ヘネト様、遊んで!」
チャオが三匹寄ってきます。
「いいよ。なにして遊ぶ?」
「ボートになって!」
一匹のチャオがそう言うと、残りの二匹も名案だという感じに目を輝かせました。
わかったと答えて私はチャオたちを背中に乗せて、平泳ぎをします。
手足で水をかけば加速し、その後にはゆったり減速する。
速度の変化に加えて、水面付近で私の体が上下することによって、背中に乗っているチャオたちは大きく揺さぶられます。
結構楽しいらしく、わいわいとはしゃぐ声が聞こえます。
お姫様だろうと、チャオには奉仕の心で接さなければなりません。
母親になったらこんな感じなのでしょうか。
それから私は、昔飼っていたエクロというチャオのことを思いました。
エクロは私とアシトにとって、対等な友人でした。
だから今のように優しく接するようなことはなく、それぞれ身勝手なことを言いながら付き合っていました。
私はエクロに、空へ連れていってほしいとせがんだことをよく覚えています。
エクロはチャオですから、飛べました。
それがとても羨ましかったのです。
だけどチャオの小さな体と羽では、いくら子供でも人間を空へ連れていくなんてできるわけがありません。
それでも私は、連れていってと無理を言い続けたのでした。
エクロはその数ヶ月後、姿を消しました。
寿命を迎えるような年齢ではなかったため、逃げてしまったのだと城のみんなは予測しました。
私はそれ以来チャオに優しくするよう心がけています。