(後編)ページ9
覚醒してたの寝ぼけ眼では、それが保健室の天井であると認識するには時間がかかった。寝ぼけ眼というよりも、頭のほうが寝ぼけていたからかもしれない。
僕はゆっくり上体を起こし、周りを見渡して、本格的にココは保健室であると理解した。
そして僕が保健室で寝ていた理由も理解した。
シュートを顔面にぶち当てられた後、僕は気を失ってしまったんだろう。
はぁぁぁぁ~。
僕の大きなため息を聞き、白衣を纏った女の人――保健の先生が薄いカーテンを開けて顔を出した。
「大丈夫?」
と気遣う先生に僕はハイと返事をし、先生に時刻を尋ねるとまもなく午後6時だという。
すっかり眠りこけてしまったようだ。
僕はベッドを降り、先生に一声かけて保健室を出る。
先生は
「もう少し休んだらどう?」
と提案してくれたが、僕は大丈夫だといって部屋を出た。少々鼻っ柱が痛いが。
保健室を出て、僕は自分の教室へ向かう。置きっぱなしの荷物を取ってくるためだ。
夕日が差し込む校舎内は薄暗く、幻想的な空間であると同時に不気味な空間にも思える、独得な雰囲気を醸し出していた。
もう生徒はほとんど帰ってしまっただろう。昼間は非常に騒がしい校舎内が、今はこんなに静かであることに妙な感じを覚えつつ、教室への道のりを辿る。
その途中、廊下に張ってある給食の献立表が目に入った。
そういえば僕は今日給食を食べていないコトに気づいた。
今日メニューは何だっただろう、好きな物だったら悔しいな。
などと思いつつ、献立表の中から今日の日付を探し出し、視線を右にスライドさせる。
そこに書いてある単語に、僕は愕然とするのであった。
主食も副食も、汁物もどうでもいい。注目すべき点はデザートなのである。
そこには確かに、『メロン』と記されていた。
何故僕がメロンに愕然としているのかわからないだろうから、ココで言っておこう。僕は――
メロンが、大好きだ――。
…と、いうコトが今日の出来事の一つとしてあり、現在に至る。
他にも細かい不運がいろいろあったが、先ほど述べたとおりそれらを語る気力が僕にはないのである。
「やっ、久しぶり」
どこからともなく、とはまさしくこのコトである。
校門をでて、亀の歩みほどの速度で家路を辿り始めた僕の目の前に、グリンが現れたのである。