(後編)ページ7

「遅刻。廊下に立っていなさい」

結局僕は、授業開始時に教室にいることは出来ず、昨日に続き廊下に立たされること確定となってしまった。
遅刻に至るまでの詳細な経緯を400字詰め原稿用紙100枚を使って解説し提出したとしても、今回の遅刻は正当性を帯びたものであったと主張する材料にはなりえないと判断した僕は、言い渡されたお約束的罰則を甘んじて受け入れた。
そして、さらにまずい事態が。

「そいつはなんだ」

先生は、僕の足元を指差し――いや、僕の足元で2本のロールケーキを交互に頬張っているグリンを指差し、僕に尋ねた。

「えっと、チャオです」
「それはわかる。問題は、なぜチャオがココにいるかというコトだ」

ごもっともである。
大体どの学校でも、基本的に愛玩動物などの連れ込みは禁止されていると思う。
我が学校も例外ではなく、例えば犬とか猫とか、チャオとかを連れてくるのは禁止だ。

というか、あまりにも当たり前のコトである。

わざわざ『ペット持ち込み禁止』なんてコト言わなくても、持って来るヤツなんかいないだろう。
だもんだから、学校の敷地内でしかも教室の真ん前にチャオがいるという光景は、あまりにも不自然なものだった。

「そのチャオは、お前が連れてきたのか」

そう先生は仰った。まずはそう考えるのが普通だろう。
校舎内をチャオが一人でトコトコ歩いてたりプヨプヨ飛んでたりすれば先生の誰かが気づくだろうし、仮に先生の目を掻い潜ってココまでたどり着いたとしても傍らに僕がいれば、まずは僕が連れてきたものだと考えるのが妥当である。
しかし、先ほど言ったとおり、原則として学校に犬とか猫とかチャオを連れてくるのはダメである。

グリンは僕が育てているチャオではないが、まぁ、連れてきたのは僕であると認めよう。連れてこざるを得なかったのだと声を大にして主張したいが、先生にしてみれば同じことである。
でも、ココで僕が「ハイこのチャオは僕が連れてきました」などといえば、また一つ先生に怒られる回数が増えることになる。
グリンは僕が育てているチャオでないにも関わらず、グリンのせいで僕が先生に怒られると言うのは至極不条理であり、納得出来そうにないのである。

なので、正直に「連れてきたのは僕です」と告白しようか、「勝手についてきたのです」と虚偽の発言をしようか、僕は一瞬迷ったのである。
そして迷った末に、

「勝手についてきたのです」

と、僕は後者を選んだ。
それを聞いた先生は「そうか」と頷き、

「じゃあこのチャオは職員室で預かっておくか。迷子かもしれないし」

そう言って一度教室に入った。
クラスの皆に「少し待っててくれ」と言い残してから、グリンを連れて職員室へ向かおうとする先生。

そこで僕ははっと気づいた。
このままグリンが職員室で預かられることになったら、僕は当然グリンが周りにいない状態で今日一日に望むことになる。
そうすると――あまり認めたくはないが、またくだらなくも恐ろしい災いが僕に降りかかるかもしれない。
それでは、苦労してココまでグリンを連れてきた意味がない。

「待ってください」

僕は先生に声をかけた。
しかし先生は、

「お前はそこで立ってろ」

と僕に冷たく言い放ち、スタスタと歩いて行ってしまうのであった。グリンを連れて。
僕は、屈辱に打ち震えながら不安に思ってしまった。グリンのいない、始まったばかりの今日と言う日を。


時間は進み、放課後である。
僕が校門を出る頃には、すでに空は赤く燃え上がっていた。時刻は午後6時を過ぎている。

廊下に立たされた後から、今こうして校門を出て行くまでに起きた出来事を逐一語るには、僕の気力は到底足りない。
なので簡潔に、僕が今回感じた最大の不運を1つ抜粋して話すにとどまるコトをご容赦いただきたい。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第219号
ページ番号
13 / 16
この作品について
タイトル
~呪いをかけチャオ~
作者
宏(hiro改,ヒロアキ)
初回掲載
週刊チャオ第218号
最終掲載
週刊チャオ第219号
連載期間
約8日