(後編)ページ5

僕がガラス越しにグリンを睨みつけている時間はそれほど十秒も無かったはずだが、信号が考えを改めるには十分な時間だったようだ。
ちかちかと信号は点滅をし始めた。
あと数秒もすれば信号は完全に手のひらを返し、頭に血が上った信号が落ち着きを取り戻すまでこの白線エリアは通行止めになってしまう。
僕は慌てて駆け出した。

つるっ

という効果音は出なかったものの、僕は見事にすっ転んだ。
何故転んだのか。あまりに古典的過ぎて、言うのも躊躇われるのだが…ココは勇気を持って解説せねばなるまい。

僕は、バナナをの皮を踏んづけて転んだのだ。
恐らく、先ほどの自転車に乗った中年男性が、僕と激突した拍子に落としたのだろう。

前のめりになった僕は、アスファルトに衝突する寸前に顔を手で庇う。僕の顔とアスファルトでは、どちらが打ち砕かれるかは容易に予想できる。
右腕に擦過傷を負ったが、顔面から突っ込むことは回避できた。

「あ…」

地面に這いつくばったまま顔を上げると、信号はすでに未熟トマトから完熟トマトへと変貌を遂げていた。
こうなってしまったら、再び通行許可が下りるまでには時間がかかる。
僕は決断した。そして走り出した。


ところで皆さんは交通事故の主な原因をご存知であろうか。
車両側に原因がある場合は、ドライバーの前方不注意などが。そして歩行者側に原因がある場合は――


歩行者の、信号無視などが挙げられる。


「うわっ!」

僕は、赤信号により通過するコトを禁止された横断歩道に走って通過しようとした所で、右から走ってきた車に対して叫び声をあげた。
あげたと同時に、持ちうる力の全てを両足に込めて後ろに飛び退いた。
その目の前を、赤い乗用車がクラクションを鳴らしながら通過していくのであった。
もし、僕が今車に撥ねられたとしても。100%僕に非があるのは明白である。

ばくばくと大きく鼓動する心臓が、今僕は確かに死を感じ取ったのだというコトを物語る。
尻餅をついたまま首だけ振り向かせる。そしてガラス越しにグリンの姿を探す。
ヤツはまだデザート類の目の前から離れていなかった。

そして僕の視線を感じ取ったのか、グリンも僕のほうを向く。そして、


くすっ


と、一瞬笑みを浮かべたように見えた。
僕は、心に思うだけにとどめようと思ったのだが、それでもつい口に出して呟いてしまった。

「殺す気か」


僕は、観念した。
この横断歩道は、グリンと言うキーアイテムを持ってこないとクリアできない仕組みなのだ。RPGの謎解きなのだきっと。
僕は立ち上がり、再びコンビニ店内へと入っていく。向かう先は、勿論甘美なデザートが立ち並ぶコーナー。
そこでは、グリンが飽きもせずに商品の品定めを続けていた。――まぁ、食べれると分かっているなら少々の待ち時間など苦でもなんでもないだろうな。くそっ。

僕はグリンに近づき、きっと今の自分の表情は苦虫を噛み潰したそれなのだろうと思いながら言うのであった。

「どれがいいんだ?」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第219号
ページ番号
11 / 16
この作品について
タイトル
~呪いをかけチャオ~
作者
宏(hiro改,ヒロアキ)
初回掲載
週刊チャオ第218号
最終掲載
週刊チャオ第219号
連載期間
約8日