[[ .5 ]]

やっと分かった。無数のクモは男の中に入っていった。
そして、支配したのだ。
男の内臓などを部品として無数のクモは少しずつ取り入れた。
そして、人間の脳と目など、外見にはなんら変わりない状態を保って。クモ自ら、内臓の役割を果たした。
心臓さえもクモが行った。血が循環しない状態になっているので、男から血は出ない。
警官が、男の周りにいた二人を男自身が消したのを見ていた。
男からは瞬間的に思えるが、クモ自身が食べたかった人間を食うために意識を一時的に遠ざからせただけだ。
ゆっくり喰っていた。周りの人ごみは無数の黒い物体によって消えていく。
そこでだ、無意識に男が発した言葉には一つの事実があった。

「俺が新しい"種"だ。この街を消そうと思う。この肉体が元々愛着を持っていた、この街を消す」

その時、あのチャオたちが現れる。
両方ヒコウタイプなのだろうか。いや、あの羽…。まさか俺の部屋のインコか!?
キャプチャをした…のか。マンションに誰かが入っていったのか?それはまだわからない。
慣れない羽をバサバサと動かして、手に何か持っている。
銃…。まさか、冗談だろ?黒いものなのは確かだ。あいつらもクモに?
だが、推理は銃で正解だった。チャオたちの放った銃弾は男に向かって進む。
逃げようとしても体が動かない。手が独りでに伸び、銃弾を包むようにして手に取る。
体を動かせる主導権が男には無い。意識はある。生き地獄…。喋ることも出来ない。
「チャオ、俺を殺してくれ!」
精神がクモから一瞬だけ抜け出した。だが、小さな声。
惨禍となった駅前の広場は悲鳴などでいっぱいであった。
逃げ惑う人々、そしてチャオと対峙する男。
「どうなってるチャオ!?」
困惑しているチャオの声が聞こえる。器官から感じ取れる音や視界はそのまま情報として男の脳を媒介される。
クモは人間の知能が必要だった。だから支配したとしか思えない。
この状況を見てそう思いながら、勝手に手が伸びて人を襲っている自分を憎らしく思った。
生きていなければ、俺は人を襲ってなどいない。
そう思いながら、必死に耐えた。
チャオたちが二弾目を物体に向けて撃つ。今度は当たった。
どんどん黒い物体が小さくなっていく。そして、消えた。
それを見て連射するが、弾には限りがある。下に銃は消えていった。
チャオは男の近くに飛ぶ。そして、近くまで来る。
「助けてくれた人…チャオ?」
恩義…。もうダメだ。喋ることはできるのか、小さくだが声が出る。
「もう…状況が違う。俺は侵食された。あのクモどもに…」
チャオを襲わないのは同種は襲わないって言う、アレだろう。だが、女は現にチャオ二匹を連れてガーデンに現れた。
もしかして、あの二匹が真の火種?
男はチャオたちに説明をする。
「チャオ…。あのチャオだ。逃げる前にガーデンに来た、あの二匹。
あいつらはミスティックルーインのガーデンからゲートを使ってきた。あいつらを殺してくれ…。
このクモは、体内に部品を取り込める。それを食料にして生きている。
ミスティックルーインかここ、ステーションスクエアのガーデンにいる。
もはや、あいつらはチャオじゃないんだ。クモだ。チャオの形をしたクモ。
それか…ここが見れる場所にいる。インコをキャプチャしたんだろ?慣れないのですまないが、飛んでくれ
気をつけろ…チャオはチャオを襲」
そういうと、もう続きの声が出なくなった。クモが抑制しているのだろう。
同種は襲えない。なぜかその原則だけは変えない。
女が口にしたのは、ヒントだった。あの女も囚われていたのだろう。このクモに。
もはやこれは人間のクモだ。"人間クモ"だ。
クモのような人間。クモ人間なんかじゃ決して無い。人間のようなクモなんだ。
人間のような恨みを持っている。ここまでの惨事を引き起こす必要は、恨みを持っていないとできない。
なぜチャオを殺せといったのか…そうじゃない。チャオだけど、チャオじゃない。
頼む…。意識が…

このページについて
掲載号
週刊チャオ第218号
ページ番号
5 / 7
この作品について
タイトル
「人間クモ」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第218号