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そうだ、クモだ。黒くて、どこにでもいるようなクモだ。
伸びるとは言っても、手首の所からまた腕が出て、そこから手まで伸びていて…つまり、階段みたいな感じで伸びている。
つまり、「腕をどこにでも生やすことができる」のだ。でも、これはクモじゃない。
伸びる手じゃなくて…あの子供の変わり果てた姿。
足が何本もあって…その内の一本が襲い掛かった。頭の中でビデオを何回も再生するように、繰り返し繰り返しその鮮明な映像を思い返した。
男の右足…。付け根から消えていった、あの右足。あれは消えたのではなく、子供に吸い取られるように消えていった。
つまり…そういった、手足の部品を保持することが可能であるのか?
そして、誰かに付け替えが可能。
でも、ナゼそんなことができるんだろう…。
少なくとも、人間ではない。では、一体何が?
クモ…部品の保持… 子供の噂?
チャオが勝手にテレビをオンにして、ニュース番組を見ていた。そこで、今集団失踪事件の特集をやっていたのだ。
集団失踪…。あの男は、嫌がっていたが右足が治った。いや、つけかえられた瞬間に何も喋らず、表情を変えずに列に加わった。
まさか…あれか?
急いで下を見ると、女が一人で立っている。
あの女だ。一体何をしているんだ…。男の件から10分程度。一体…
「チャオ、ガーデンに戻りたいチャオ」
「木の実が食べたいチャオ…」
チャオがねだりだす。仕方ないことだ。だが…マンションの入り口付近にはあの女がいる。
そこで急にガーデンで起こった出来事を思い返す。
あの女が言っていた…「人間は人間を、チャオはチャオを」のフレーズ。
そして、「火種」…。
同種を襲う思想のようなものを手にした場合、チャオはクモになることは無い。
あの言葉には、一つの真実があった。
あの女こそが、火種であった。あの女が、集団失踪をさせていた。

チャオに一声かけた。
「ここから出ないでほしい。大変な事件だ。殺されてしまうかもしれない…。死んでしまうかもしれない」
急に黙るチャオに、もう一つ言った。小さく、涙さえ浮かんでいると見れるような…
「危なかったら逃げてくれ。頼む…」

都市伝説そのもの。あの子供がしつこく話していた、噂そのもの。
人間が手が何本にも増える、黒いクモになる…。だから鋭い推理をすることができた。
大声でそのことを話す子供を敵意とみなして、あの火種は襲い掛かったのだろう。
そう考えると、都市伝説は全て本物の物。相当昔から伝わってきた都市伝説なだけに、信頼もできる。
以前もそんな事件があったと考えればいいのだ。
口封じに子供をさらう…。そして、クモの性質。
クモは、肉体の中身をからっぽにするという喰い方の捕食をする。生きるために。
不思議な喰い方だが、それがクモなのだ。仕方がない。
同種にするのはその後、からっぽになった肉体になにかを入れ込むとか…何か、その種の思想を埋め込む。
元々あの女は多数の肉体を食って、部品を取り込んでいたとしたら…能力を分け与えることも不可能ではない。
さて…問題はここから。都市伝説ではそのクモの存在までしか語られていない。
そのクモの殺し方を知らない。タダ単に、人間と同様に胸を攻撃すれば殺せるのか。それもわからない。
料理をしないので、包丁が無い。手軽に扱える凶器が無い…。
これでは負けてしまうのではないか?と大急ぎで部屋を漁る。
元々生きがいも無くすごしていた男は、今だけが輝ける時だと自分で思った。
輝ける時間は、今しかない。社会に男という存在は、今しか意識されないのだと。
さっきまで頭に無かった、とある凶器を思い出した。
砂浜へ行くときに使う、護身用のナイフ。簡単に見つかった。
チャオたちには何も言わず、部屋を出て行く。
このマンション、中に階段等がある。明かりは明るく、最近作られたマンションだ。
エレベーターを使い、下まで降りていく。
女…いた。ずっと上を向いている。何を見ているのだろうか?
そっと、後ろから忍び寄る。

ヒントは何も無い…。ゆっくり、声と足音を殺して…。
男は、ナイフを女の左胸に突き刺した。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第218号
ページ番号
3 / 7
この作品について
タイトル
「人間クモ」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第218号