[[ .2 ]]

短距離ではあったが、予想以上に疲れた。
疲れを癒すために、チャオガーデンに向かう。ホテル内にあるガーデンだ。
カジノに向かう途中であんなことがあったのだから、行く気も無くなった。
リングは十分足りている。共同住宅に部屋を持つ男は、そこに向かわずにガーデンへと向かったのだ。
エレベーターに入り、ボタンを押す。二個しかない。そりゃそうだ。
静かなエレベーター内。しばらくして、目の前のドアが開く。
開いた先には…チャオだ。そりゃそうか。
しかも誰もいない。休めるなぁ。
「木の実取ってチャオ」
一匹のチャオが男に話しかける。木にもたれかかって座っていて、驚いたせいか横に少しズレて後ろに倒れてしまった。
痛がりながらも、チャオに返事を返す。
「ちょっと待ってろよ…」
男は快く、木登りを始めた。短いし、木の実にしがみ付いてそのまま落ちれば取れる。
木を揺らして取ることも可能だが、木の実が変な形にゆがんでしまうのを防ぐためだ。
このワザは、どこかの雑誌のチャオ特集で見たチャオへの接し方のコーナーから学んだ。
「ありがとうチャオ!」
強引に男の手から木の実を奪い取り、丸ごと食べ始めた。
ちなみに、このガーデンにはチャオが二匹いる。他のガーデンへのワープゲートがあるのだが、入ったことがない。
ワープという原理そのものが信じられないからだ。
よくわからないが、なんか嫌気がする。
もう一匹がその様子を見て、男にねだり始める。
「チャオにもチャオにもー」
その表情を見てたら取らずにはいられない気がした。
木の実を同じ取り方で取り、渡したところで他のガーデンからワープゲートで人が来たようだ。
「誰か来たみたいだな」
そうチャオに話しかけると、木の実を食べながらワープゲートとエレベーターの方を交互に見始めた。
ワープゲートにまず衣服が送られ…そして…肉体…だが…この顔は!!
「お前、なぜここに…?」
紛れも無く、あの親子であった。

無表情な顔で男とチャオを見続ける。
チャオの前に立ちふさがり、一言牽制する。
「近づくな。何にも危害を加えずに、どこかへ立ち去れ」
なんとなく危ない匂いがした。だからだ。正直に言うと、すぐにでも飛び掛りたかった。
チャオに影響があるかなとちょっと退き気味になり、実行できなかった。
しばらくにらみ合っていると、子供の方が口を開く。
「やられちゃった」
男がそれに対して、やや引き気味に質問する。
「どういう意味だ…?」
子供は笑顔で、嬉しそうにこう答える。
「この人にだよ」
親がこう続ける。
「人間は人間を、チャオはチャオを仲間に引き入れる…。戦争の開始だよ」
そういうと、肌色で大きな突起物がたくさん付いているボールを差し出した。
良く見ると…腕の先についている、手。何本にも指が増えている、手であった。

「それは…それは、一体何だ…?」
普通に恐ろしいだろう。人間の構造としてこんなのが認められるのか?
良く見てみると、その指全てが微かに動いていた。全てに骨と神経が…そんな馬鹿な
ずっと見ていると指はどんどん内側に"沈んでいった"
最終的に、普通の人間である五本に。普通の女性の綺麗な手がそこにあった。
普通の状態になったその女が、笑みを浮かべ始めた。そして、男にこう告げる
「私が火種。さぁ、近くへ…」
……!!腕が伸びる!男の方へ腕が伸びる!!
「うわああああ!!」
大きく叫び、大きく尻餅を付く。あのボールのような手のように、どんどん体に沈んでいく。
チャオ達も理解できていた。この恐ろしい光景を。
そして、女と子供が少し前に出てきたその直後。ワープゲートの上からチャオが二匹…
これも予想通りだ。ポヨが…団子みたいに何個も何個も上に重なっていた。
もはや何も言わず、男はガーデンをエレベーターの方向へ走る。チャオも後を付いていく。
付いていっていることを察知した男は二匹のチャオを抱きかかえ、エレベーターへ。
「閉」ボタンを連打し、ほっと一息ついた瞬間、ほんの閉まる瞬間。
黒い手がドアとドアの間に挟まる。
「ガアアアアアアアア」
人間ではない、そんな叫び声が聞こえたと思ったらドアに挟まっていた黒い手は消えていた。

とりあえず、共同住宅…マンションの方へ、チャオを連れて向かうことにする。
マンションに行くまでにチャオを連れていることを誰かに見られてはまずい、と思い挙動不審な行動をしながらマンションに着く。
そして、部屋に入り鍵を閉める。
ドン!と大きな音を立てたドアに、部屋で飼っていたインコは驚く。
「一体アレは何なのチャオ?」
怯えた様子で男に疑問をぶつける。当然ながら、男も分からない。横に首を小さく振った。
外を眺めていると、二匹のチャオの前にあの女と子供がいる…。
ちょうどそこに通りかかる、男と同じフリーター。カジノからこのマンションに帰るところだろう。
そこでだ。女の手が見る見る内に黒い手になっていく。
いや…子供…子供だ。異変は子供だ。

全身真っ黒。

通りがかった男を、その物体から伸びた黒い棒

このページについて
掲載号
週刊チャオ第218号
ページ番号
2 / 7
この作品について
タイトル
「人間クモ」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第218号