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隣にいる人が本当に人間であるか証明できる人はいない。
なぜなら、他人だからだ。これほど簡単でわかりやすい物はない。
それが自分の問題である場合、自覚が無い場合以外のことは考えなくても良い。
なぜなら、自分だからだ。これほど難問で結論の見えない物はない。
以上のように、自分でもわからないこと、自分では絶対に分かりえないことがある。
前者の場合、指摘を受けさえすれば気付くことはあるが何かが違う。
実際には存在し得ないことを指摘され、それを認知してしまえばそれは大きな間違いとなる。
それが難しいところ。結局のところ、他人を完璧に信頼することは難しいのだ。
だから自我を鋭く研ぎ澄ます。自分に忍び寄る、危険から身を守るために。
ここはステーションスクエア。高層ビルが並ぶ、けれども小さめな街。
社会に貢献し、発展させていくことを目的とした島国である。
ので、家庭内での学習が主になっている。学校は無いのだ。
素質さえあれば小学生くらいの年齢からでも会社に通うことができる。素質さえあれば。
「都市伝説?」
噂が大好きな子供が、通りがかった成人男性にちょっとした話をした。
男は不思議がり、ついそう聞き返してしまった。
なにやら、最近ニュースでも散々取り上げられる「集団失踪事件」に関する噂らしい。
「あのね、みんながいなくなるやつの噂なんだけど、どこかにみんなで歩いていくらしいよ!」
よくわからないのは本当に小さな子供が喋ることだからだ。
後ろから走ってきた母親らしき人が「すみません」と連呼し、頭を下げてその子供を連れて行く。
その話を聞いた直後に連れ去られるんだから、ちょっとこれは危ないかなと思い行動開始。
男はフリーター。社会に貢献する見返りでお金がもらえるのはここでも共通なことだ。
だが、カジノがある。それに、ちょっと危険だがリングが落ちている砂浜がある。
その、エメラルドコーストは度胸試しをする場所として有名だ。
封鎖していることは封鎖しているのだが、通り抜けるのが簡単。つまり、誰であろうが入れる状態である。
警官でも、人間に対して害のある、意思のある機械を処理するのは難しい。
有害な電波を撒き散らしてもすぐに対抗してくる。裏で誰かが生産しているものと思われるが…捜索に困難である。
なにしろ、失踪事件のこともある。そのため、法として「危険区域」に指定された場所に自分の意思で立ち入った者に、そこで起こった事件に対しては目を逸らすことにした。
テレビやニュース紙、そのほか目に付くところにはそんな知らせ方をしている。
また、週一回くらいのペースで町長自らがそれを熱弁することだってある。
要するに、市民全体に認知させるのであった。
知らなかったと通されないようにの処置でもある。機械はなぜか人が以前まで…いや、今でも移動できる範囲まで来ない。
それに対する危険もあった。だが、今の状況が長続きすることを願った。
話は戻るが、そんな危険区域にでも平気で立ち入って、リングを拾ってそれで生計を立てる男なのだ。
事件にも無関心。だが、そこら辺にいる悪ぶってる男、と言うわけではない。
しかも、この島国にはそんな人はいない。誰しもが馬鹿らしいと考えている。
男はその親を追いかけた。
子供に話しかけられたのがカジノ前。その親は駅へと歩いていった。
追っていって正解だったのかもしれない。子供はなぜか、暴れている。
それも、逃げようとしているかのようだ。それを裏付ける証拠として、周りにバレないように足を踏んだりしている。
それに、手を握る力が半端無いように思える。子供の赤い手の、握っている周りが白くなっている。血が通っていない証拠。
これはマズイと思い、一声かける。親の行動ではない。
「あんた、その子供に何をしている?」
階段を何段か登ったところだ。
そんなに混んでいると言う時間じゃない。昼時だ。
しかも、カジノ前となればそれまた人がいない。よって、その親に向かって男が言ったと誰からも明確な状況。
一歩立ち止まり、親は子供の手を引っ張ってこちらを見向きもせず走った。
思わず追いかける。それが普通だろう。
だが…本当に女の速さなのか?体力に自信のある男だが、追いつけない…同じ速度ではない。それ以上?
この街の駅は、切符を使うものではない。混むと予想される時間帯のみ、時間で動くことになっている。
それはミスティックルーインに遺跡探訪に行く方々への配慮であった。
都市はここだけだし、そもそも電車自体使うことが少ない。
その母親は思いっきり電車に向かって走る。男が電車の前にある階段を走っている時だ。
「早く発進させて!」
あの母親の声。思いっきり叫んでいる。
この電車の特徴である。乗る人が元々少ないこの電車は、合図さえ貰えば何が何でも発進させる。
電車のドアが閉まる…。男は駆け込みさえままならず、電車を見送ってしまった。