第25話続き
【キッド】 「ベラドンナ。オレがこのサイハテガーデンの権利書さえ渡せば、ちゃんとヒメは返してくれるんだろうなあ?」
【ベラドンナ】「ええ、権利書さえ手に入ればチャオの一匹や二匹ぐらい返してあげるわよ。それより、警察は呼んでないでしょうねえ。」
【キッド】 「呼んでねえよ……。」
【ベラドンナ】「お利口さん。ま、警察を呼んだり例のおかしな“力”を使ったりしたら、この子の首はすぐにはね飛んじゃうけどね。」
【ヒメ】 「うう……」
ベラドンナは、ヒメのアゴをなでながら妖しく微笑む。
【キッド】 「とにかく、まずヒメをこっちへ返してくれ。」
【ベラドンナ】「権利書が先よ!」
ギャングの一人が、ヒメの耳に銃口を突きつける。
【キッド】 「………わかった。そのかわり約束は守ってくれ。」
【ベラドンナ】「ええ。」
ベラドンナのもとへと歩み寄ろうとするキッドを、フライト君が心配そうな表情をしながらひっぱる。
【フライト】 「キッド……。」
【キッド】 「大丈夫。オレに任せろって言っただろ。お前はここで待っていろ。」
【フライト】 「……うん。」
【ベラドンナ】「さあ、ぐずぐずしないで早くこちらに渡してちょうだい!」
【キッド】 「ああ。」
キッドは、おずおずとベラドンナに近づき、サイハテガーデンの権利書を渡そうとする。
しかし、その瞬間……
ズドォォォォォォォン!!!
ズドォォォォォォォン!!!
2発の銃声。
銃を正面に構え、妖しく微笑むベラドンナ。
その銃から吹き出てくる白い煙。
ベラドンナの足もとには、赤い水たまり。
フライト君は、一瞬何が起きたかわからなかったが、ようやく悟った。
【フライト】 「キッドォォォォォォォッッッッッッッ!!!」
フライト君は泣き叫びながら、腹部からおびただしい量の血を流して倒れているキッドに駆け寄った。
そして、ベラドンナをにらみつける。
【フライト】 「おまえ、どうして約束を破った!? キッドを撃った!?」
【ベラドンナ】「約束? そんなものは、破るためにあるのよ。」
ベラドンナは、倒れているキッドを一回蹴る。
【ベラドンナ】「バカねえ。あたしたち裏社会の人間を簡単に信用してしまうなんて、甘いにもほどがあるよ。」
【フライト】 「………………。」
【ベラドンナ】「なぜあたしが取り引きにこの場所を指定したかわかる? それは、ここなら人目につかないからよ。ま、バレそうになってもスラム街のクズ人間の人権なんてあってないようなものだから、警察にに金でもつかませて適当に処理するわ。」
【フライト】 「………………。」
【ベラドンナ】「スラム街のクズ人間どもやクズチャオどもがこんな広い土地を持っているなんて贅沢にもほどがあるわ。」
【フライト】 「………………。」
【ベラドンナ】「私たち裏社会の人間がこの腐りきった街を、お金持ち達が遊んで暮らせるテーマパークとして再生するの。その崇高なる計画には、この男は邪魔すぎたわ。」
【フライト】 「………………。」
【ベラドンナ】「まあ、この男がいなくてはあんたは“力”を使うどころか、ただの役立たずのチャオに成り下がるでしょう。ほーほほほほほほほほほほ!」
口元に手を当てて高笑いをするベラドンナに、フライト君は怒りに打ち震えながら言う。
【フライト】 「ヒメを……かえせ…。キッドを…」
その瞬間、フライト君にたくさんの銃が突きつけられる。
【ベラドンナ】「このヒメとかいうチャオは、色が綺麗だからあたしが商品としてもらってあげるわ。『はきだめに鶴』とはまさしくこのことね。ほーほほほほほ!」
(※はきだめに鶴:つまらない所に、そこに似合わぬすぐれたものや美しいものがあることのたとえ。)
ベラドンナは、ヒメを返さないまま、ギャング達を引き連れてサイハテガーデンを出ていった。
後に残ったのは、フライト君と大量の血を流して倒れているキッドだけ。
【フライト】「キッド、キッド! しっかりして!」
【キッド】 「ごめんな。オレ、お前との約束守れそうにないよ。」
【フライト】「キッド……。」
【キッド】 「ヒメが帰ってきたら、せめてオレとお前とヒメの3人で、どこかで仲良く暮らそうと思ってたのにな。」
【フライト】「そんな……。」
悲しい顔をするフライト君だが、ふと思い立ったようにキッドに提案する。
【フライト】「そうだ、“力”だよ。ふたりで“力”を使えばこんな傷ぐらい。」
【キッド】 「ハハハ、できるんならとっくにやってるよ。」
キッドはフライト君に悲しい顔をさせまいと、必死に笑顔を作っている。
【キッド】 「どうやら僕が傷つきすぎているせいで“力”が使えないみたいだ。ごめんな…ゲホッ、ゲホッ!」
キッドは苦しそうにせきこみ、血を吐き出した。
【フライト】「キッド、もうしゃべらないで!」
【キッド】 「楽しかったなあ、あの頃は。みんながいて、毎日楽しくて。」