第25話
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<今までのあらすじ>
何の才能もないため、どこのチャオガーデンに行ってもいじめられていたトビチャオのフライト君。
そんなフライト君を暖かく迎えてくれたのは、「サイハテガーデン」の管理者、キッド=アズライル(18)でした。
キッドは1年前に亡くなったおじいちゃんから「サイハテガーデン」を遺産として引き取り、おぼつかないながらも優しく暖かく、チャオ達を見守っているのでした。
フライト君とキッドはチャオと人間という枠を超えて、すぐに仲良しになりました。
最初は新入りのフライト君をいじめていた他のチャオ達も、フライト君の頑張りに感心して、徐々に仲良くなっていくのでした。
そんなある日、「サイハテガーデン」に危機が訪れました。
地上げ屋が「サイハテガーデン」がテーマパークを作るのに邪魔だと言って、ギャングを雇ってチャオ達を無理矢理立ち退かせようとしてきたのです。
ガーデンの中で好き勝手に暴れるギャング達。
チャオ達もキッドも、なすすべがありませんでした。
ところが、もはやあと一歩というときに『ティカル』と名乗る女神が現れて、フライト君とキッドに“力”を与えます。
その“力”はフライト君とキッドが揃って初めて使える、いわば小さな合体魔法のようなものでした。
最初のうちはそれで充分ギャング達を追い払えましたが、やはり汚い大人のやり方を使われればどうしようもないわけで、「サイハテガーデン」から一人、また一人とチャオ達が立ち退いていくのでした。
そして、ついにはギャング達は地上げ屋の命令で、フライト君のガールフレンド、ヒメを誘拐してしまったのです!
(念のため、今回の話ではフライト君とヒメ以外は全員人間です。)
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虹の翼 フライト
第25話『止まらない涙』
「サイハテガーデン」付近、スラム街のとあるカフェ。
フライト君とキッドは、静かにコーヒーを飲んでいる。
【フライト】「どうして、こうなっちゃうのかなあ。みんな、平和に暮らしてたのに。」
フライト君の目から大粒の涙。
その瞳は、果てしない悲しみに満ちあふれている。
そんなフライト君の肩をポンと叩き、キッドは力強く言う。
【キッド】 「大丈夫。ヒメのことならオレがなんとかしてやるから安心して。」
【フライト】「もしかして、奴らの条件をのんで、サイハテガーデンの権利書を渡すの?」
【キッド】 「…………………ああ。」
途端に、キッドの語調は弱くなる。
【フライト】「そ、そんな。あんなに、あんなに大事にしてた場所じゃないか。大好きだったおじいちゃんが残してくれた場所なんでしょ?」
【キッド】 「うん、大切な場所には変わりないね。でも……」
キッドはフライト君に優しく微笑みかける。
【キッド】 「それは、君たちチャオがいてこそ大切なんだ。」
【フライト】「え?」
【キッド】 「チャオのいないガーデンなんてチャオガーデンじゃない。おじいちゃんの残してくれた場所は、“チャオガーデン”なんだ。だから君たちの命には代えられないよ。」
【フライト】「キッド……。」
キッドの表情はどことなく寂しそうな、それなのに何かしら強い意志みたいなものが感じられるものだった。
カフェの窓から見える、行き交う人々を見てキッドがつぶやく。
【キッド】 「このスラム街も、来年には跡形もなくなっちゃうのかなあ。」
【フライト】「……………………。」
【キッド】 「いや、何でもないんだ。」
キッドは一瞬慌てるが、やがて何事もなかったかのようにフライト君の頭をなでてやる。
【キッド】 「取り引きの指定時間は、明日の正午だ。奴ら地上げ屋の目的であるガーデンの権利書さえ渡せば、ヒメはちゃんと戻ってくるさ。だから、それまでゆっくり休もう。なっ。
【フライト】「う、うん。」
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そして、その日はやってきた。
誘拐されたヒメと権利書の交換指定場所、「サイハテガーデン」の大木の下。
さっきまでの晴天がうそのように、空は曇っている。
昼の12時きっかりに、ギャング達は現れた。
【キッド】 「ベラドンナ!」
キッドはそのギャング達の中央にいる女性に大声で怒鳴りつける。
ベラドンナ……地上げ屋の女社長である。
ギャングのうちの一人は、ヒメの頬にナイフをこすりつけている。
【フライト】 「ヒメ!」
【ヒメ】 「フライトォォォッ!!」
【ギャングA】「騒ぐな、人質!」
バチッ!
ギャングの一人が、ものすごい勢いでヒメにビンタをする。
キッドは一瞬苦い表情をして、それからベラドンナのほうをキッとにらみつける。