『スパイラルオレンジ』 君が思い出になる前に。
ある晩。
男がダークチャオを連れてやって来た。
―おやおや、子どもがこんな所に・・・。
―誰が子どもだ!立派な二十歳だよ!
男の特徴は、メチルオレンジの髪の毛にピアス。
だけど、身長はせいぜい150cmと言うところか。
細身で美形だがどう見ても子どもだった。
―で、此処に来たのは何か訳が?
―いや、ただ単になんか愚痴れそうな場所だったから。
―そうですか、じゃあ、これでも。
ダーカは苦笑いながらオレンジジュースを出す。
―だから、俺は子どもじゃないんだよ!
―おっと、これは失礼。
ダーカはついつい出してしまったことを謝り、
いつものように白ワインを差し出す。
―で、愚痴が言いたいんでしょう?
―そうなんだよ。じゃあ、話すか。
ある日な俺は捨てられたチャオを見つけたんだよ。
そりゃあ、あんたとちがってかわいかったよ。
水色のピュア。本当に純粋なチャオの目だったよ。
俺は昔からこの身長がコンプレックスだった。
だから、表の奴にはよく冷やかされたよ。
なんせ、女子よりも小さかったほどだったからな。
だから、俺は裏の世界に入った。まだ、中学の時だったっけな。
そこで俺は一通りいろんなことをやったよ。
もちろん、悪いこともそうだけど、普通のこともな。
俺は悪一色になっていた。
親とはそれから二度と話さなくなったし、
俺を冷やかした奴を即殴って何度も呼び出された。
問題児と言う言葉が似合いすぎる奴だったよ、俺は。
だけどな。俺は忘れていたんだよ。
あの捨てられたチャオを買っていたことを。
俺は裏の奴としか面識がないから、
あまり知り合いにチャオを買ってる奴なんていないんだよな。
だから、俺はチャオが黒くなっていく意味が分からなかった。
いつしか、チャオは真っ黒に染まっていたさ。
―それで、進化してしまったんですか?
―そりゃあ、育てるのは俺だけだったから。
チャオは当然望んでいないだろう。
ただ、俺が悪に染まっていくのを止めようとして、
あんたはこれだけ悪いことをしている・・・。
って、伝えたかったのかもしれないな。
それで、その通り、俺は気付いたさ。
そして、このチャオをヒーローチャオにしようと思っている。
でも。
名前も決めていない。褒めたこともない。
俺はもう、こいつが寿命だと思っているんだ。
なぁ、どうすればこのチャオをヒーローに出来る?
俺が悪だったことを教えてくれたこのチャオに、
恩返ししてやりてぇんだよ。
ダーカはこの男こそ純粋だなと思った。
話をしているときの目は本当にチャオを思っていて、
チャオを大切にしたいと思っている。
ダーカは、すたすたと、オレンジ色のドロップを取り出した。
―なんだ?これ。
―ドロップですよ。昔ながらのアメみたいな物ですかね。
―なんか、名前でもついているのか?
―『スパイラルオレンジ』ですよ。
もしも貴方が、本当にこのチャオを大切にすると、
私が気付いたからあげました。
貴方は始めて聞く言葉でしょうが『転生』ってあるんですよ。
チャオはその飼い主を信用して始めて転生します。
そして、何度も螺旋を繰り返すうちに、
貴方のチャオとの絆は深まっていくんですよ。
そのチャオが思い出になる前に、精一杯かわいがってください。
貴方の心はじゅんすいだから。
きっと、次はヒーローチャオに転生しますよ。
―そうか。なら、その転生をして、かわいがってやるよ。
もう、悪の道には入らない。
つぎはこの身長を言われても、笑って流せるようにして。
いつか。このチャオをヒーローに。
口が少し悪い男の心は限りなくピュアだった。
『スパイラルオレンジ』
希望と絆を表すドロップ。一番大切な人と、
その人が思い出になる前に一度なめてみると良いかもしれません。
終わり。