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元々こんな仕掛けになっていると知っているならば、数cm浮かして指先を水晶玉に触れさせることができる。
少しでも腕が動けば、すかさず確認してくるだろう。
また、このような行動を起こしてしまったせいで僕が切羽詰っているということが伝わってしまった。
「もう水晶玉はしまうよ。解けなかったようだからねぇ」
老婆はそういって、水晶玉をテーブルの向こう側に隠す。
終わった。軽はずみに不正行為を行ってしまった。僕は変われることができなかった。卑怯者だ。
落ち込む僕を見て老婆は一言、なだめるように言う。
「君なら少しはできそうだ。この子を無事にチャオガーデンまで連れて行ってほしいのさ」
老婆の一言が合図なのか、テーブルの向こう側から一匹のチャオが小さな羽根を動かして飛んできた。
「チャオがどうかしたんですか?」
正直、良く分からなかった。
バレなければいいと思ってテーブルに腕を乗せてしまうという暴挙に出た僕に、"君ならできそう"と言う言葉が飛んだ。
何が出来そうなんだ?一体なんなんだ。
「水晶玉に関することで、真っ先に疑ってかかった。なんにでも疑える、その考え方ならチャオを運べるはず」
老婆は一人で納得している。
「いえ、近くのホテルの中にあるガーデンに連れて行くだけですよね?」
ここは路地の奥。ただ単に、まっすぐ行けばいいだけだ。
腰を痛めたとかで自分でいけないのだろうか。いや、このチャオはここで管理してたのか?
水晶玉を通じて何のテストをしたのだろうか。その前に、この店の存在理由とは。
「この子を連れてここを出ると、極端に不幸になるのさ。それに耐えられそうだ、とも感じたのでね」
不幸の手紙がチャオになっただけなのかは分からない。けれど、簡単なことだ。
だけど、見返りも何も無い。ただ連れて行くことに何の意味があるというんだ。
「この通り、もう歳でして。不幸に耐えられない上に、ここにこの子を置いておくとかわいそうで」
何か物悲しそうだ。過去はどうであれ、放っておくわけにはいかない。それが男だろう、と自分で結論を出す。
「任せてください。見返りは結構です。ズルをしてしまったことがその等価ですよ」
そういって、チャオを抱きかかえて元気良く店を出る。
気のせいか?目の前がボヤけている。
視力が極端に悪くなっている。これがあの老婆の言った、不幸だというのか?
僕が変われる最後のチャンスはこれしかない。そう信じないと切り抜けられない気がする。
周りは狭い。チャオを下ろすとついてこない気がする。両手が使えない。結構チャオって大きい。
一歩一歩、確実に歩くこと。これは既視感だ。そうだ、後ろの店に入って、動いた時だ。
ここであの歩き方が生きた。足音も何も立てずに、少しずつ擦って歩くやり方。
足を完全に地面から離さない。こうでもしないとダメだ。
その時だ。僕の後頭部に衝撃が走る。
上の方で女性の悲鳴が聞こえる。一体なんなんだ。
衝撃のおかげでそのまま前に倒れこんだ。チャオを守る一心で、いつの間にか仰向けに倒れている。
頭が熱い。血が出てるのか?近くを片手で探ってみると、瓦のようなものがいくつかあり、土もその辺りにあるみたいだ。
視覚が殺されている今、感覚と記憶だけを手繰り寄せる。
植木鉢が上から落ちてきたと考えるべきだ。余計な時間を使ってられず、立ち上がろうとした。
だが、自分の体が思うように動かない。
左足が体のバランスを崩し、再度その場に倒れこむ。情けないとは思うが、仕方が無い。
女性に頭を下げられるのは男として情けない気がする。その誇りにかけても、この場はなんとか離脱しなければいけない。
立ち上がれないものは仕方が無い。その場に座り込み、少し休むことにした。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第219号
ページ番号
4 / 6
この作品について
タイトル
「道端に落ちている仮説」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第219号