~白鷹潤一の覚醒~ 一章

右わき腹の痛みと、鉄の塊が消え去った。
見る見るうちにそれは元の形をかたどっていく。
ファンタジーとかでよくある「回復呪文」ってやつか。すげえな。
いや、実際勝手に元に戻ってるだけなんでよく分からないが。
「ふざけている?それを言うなら、そんな砂鉄に等しい力で大見得を切れたものだな。」
だから俺は何も言ってねえ。
しかし、俺の口は動いている。
俺の意識に対抗して。
反抗期か?
という訳で、どうやら今回の主人公は俺だぜ。
俺は〝救世主〟白鷹【しらたか】潤一【じゅんいち】、本当の〝無力化〟を見せてやる。



   マゼルナキケン ~白鷹潤一の覚醒~



「白鷹って…きみ、そんな名前だったっけ?」
そんな訳ねえだろ。俺が言っているんじゃないっての。
「俺はこの体を使ってる人間じゃあ無い。諸般の事情によって、こいつの〝無空間〟内に秘められていた男だ。」
「え…って事は、あなたが…?」
城宝の声が聞こえるんだが、知り合いか?
俺の意識もむなしく、冬将軍の驚きの表情を傍らに、俺の視線は寿原俊之にロックオン。
「白鷹…?」
〝侵略主〟はこいつの名を呼ぶと、即座に右手の拳を握った。
ぶわっ―
視界は真っ暗な空間に覆われ、俺はそこがさきほどの、姿を消した空間の中だと知った。
元に戻った瞬間、目の前に寿原がいた。
「―」
寿原が何かつぶやく。白鷹(俺)は無言のまま、右手を爆発させた。
ちょっと待て。
痛―くないな、なぜか。
「痛覚と出欠の〝無力化〟だ。」
誰かこいつにレッドカード出せ。
「分かったぞ…。お前が、あの白鷹か。」
「〝無力化〟」
陣風吹いて、俺の周囲は真っ黒くなった。
訳が分からないぜ、白鷹。
最初の定位置に戻って、俺は寿原俊之が何一つ変わらない姿でそこにいるのを見た。
「逃げた奴には負けんさ。」
「そうだな。という訳で、俺の力をお見せいたそう。」
「雑言を並べるな!」
ずらぁっと現れたのは、この広範囲におよぶ銃弾の嵐だったが、その全てを自分の身に受け切って、しかし損傷は無かった。
それもそのはずかな。
固体というものは貫けば壊れるが、液体は壊れない。だからだ。
理屈で言えばそうなる。
だが、なぜこうなっている。
「まずいな…」
フレアの声が聞こえた。
「ええ、止めましょう。」
城宝の声が聞こえた。
「親友くん、おきろ。」
冬将軍の声が聞こえた。
「あー!もう!なにやってんのよ、あのボケ!」
円まゆかの声が聞こえた。
俺の回りに七つの〝カオスエメラルド〟が舞う。
体が透けていく。
俺の両腕が、水色の液体と化した―


「〝カオスインパクト〟」
「くそっ!」
つぶやいた白鷹(俺)の言葉で、空間から圧力がかかった。
俺に打撃攻撃は通じないらしい。
寿原は鉄を空間に創り出しているものの、なぜだろう、粉砕されていく。
「俺の佐伯を奪った罪だ、寿原俊之。地獄の痛みのうちに滅びゆけ。」
その声を聞いたとたんに、俺の意識の中に怒りが溢れ返った。
ああ、こいつ、何かあったな―…
〝カオスエメラルド〟の光の中で、俺の体は水色に染まっていく。
時が動き始める。
町が元に戻る。
空が雷雲に覆われる。
水が、暴走する。
俺の意識は、俺の体と分離した。


「〝パーフェクト・カオス〟……」
寿原が呟いたのが、こんなに離れていても分かるほど、静まり返った空間。
時が止まった。
街中は洪水に洪水を重ねた風景で、風雅もあったもんじゃない。
俺はといえば、
「透けてるね。」
「うん、透けてる。」
「透けてるわ。」
「透けてるぜ。」
「うるせえっ!」
透けていた。文字通り。
体が半透明なんだ、これが。
「とにかく、僕がなんとかするしかないね。」
フレアが言う。どうしろと?
「あれは〝カオス〟の最終形態だよ。昔に〝CHAO〟の文明が崩壊したきっかけとなる事件にね、〝カオス〟の暴走があったんだ。」
「つーか、まず俺の体をどうにかしねえとな。」
「ああ、一時間も経てば、君の意識ごと消え去ってしまうからね。」
………。
「城宝。冬将軍。親友。円。」
仕方ない。一大事だからな。
「俺の勘だが、今の寿原俊之は、こっちの寿原俊之じゃない。別の世界の寿原俊之だ。」
「そうなの?」
「ああ。だから、あいつを目覚めさせる。どうにかして〝カオス〟を足止めしてくれ。」
「あ!ちょっと、あんた!」
円まゆかの静止の声に、俺は走りかけた足を止めた。
「どうした?ここがビルの屋上って事は分かってるぜ。」
「ん」
様子が変だな。
「まあ、その……死なないでよね。」
呆気にとられた。
こいつがそんな事を言うなんて。
だから、城宝が何か言いたそうにしてるのなんて、目に入らなかったんだ。
「死にたくねえから行くんだよ。」
50m、7秒8の力を見せてやる。
俺は走った。そして、飛んだ。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第273号
ページ番号
38 / 40
この作品について
タイトル
マゼルナキケン
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ新春特別号
最終掲載
週刊チャオ第273号
連載期間
約5ヵ月9日