~まどかまゆかの激昂~ 四章
「出来るだけあたしが消耗させるわ!あんたは、あのでかい砲弾を、思いっきり貫きなさい!向こうにいる、すました馬鹿ごとね!」
そのつもりさ、円まゆか。
円まゆかは俺に指示を出すなり、無から大きな刀を創り、振りかぶる。
「〝風を纏え、刃〟」
脅迫するような声で言った。
ぶわっと、背中に吹き荒れる風を感じる。
黄金の槍が、一層深く輝いたような気がした。
「〝ルナティック・サイバー〟!!」
二発目だ。
まあ、いいさ。
この槍で貫いてやるよ。
不思議な感覚が、俺の中を巡っている。
ああ、そうか。〝無力化〟の応用か。
俺は〝無〟じゃねえからな。
分かったよ。滅茶苦茶な助走、付けてやる。
円まゆかが無から創りだす、〝有〟なら俺は、
〝無〟だ。
その一瞬で、
俺の体は消えた。
黄金の槍も消えた。
円まゆかが、刀を振り下ろすだろう。
フレアが、あの強烈な爆破を繰り出すだろう。
その風圧によって、突然現れた俺は煽られる。
俺の体と槍を〝無〟として、〝ガイア〟と一体化させる。
そして〝有〟に回帰する。
予想通り、追い風が俺を応援してくれた。
黄金の槍を突き出して、〝無〟の気を帯びさせる。
「インフィニティ・デストロイヤーアアアアアアアアアアアア!!!」
適当に叫んでみた。
それは、俺がやったゲームの必殺技だった。
ラスボスにも通用する、最大最強の必殺技だった。
砲弾は砕け散り、〝無〟に帰す。
二発目の砲弾も砕け散り、〝無〟に帰した。
お前も滅べ、〝ダイヤモンド〟。
消えろ。
黄金の槍の輝きは、砲弾の〝サイバー〟を吸収し、輝きが果てし無く広がった。
その鋭い先で、俺は敵の胸を貫いた。
一陣の風が舞った。
全ての音が止まった。
俺は空中に浮かんでいた。
そいつの顔は驚きに満ち溢れていた。
そして、消えた。
勢い余って、俺は地面に顔から突撃した。
最大最強の必殺技は、健在だった。
俺にもダメージがあったけどな。
「うわ、ぼろぼろだな。」
廃墟と化した街並みを見て、俺は言う。
親友も生きていた。城宝と冬将軍は、回復が早いな、さすがだ。
「この街にいた奴らは…」
「問題ないよ。〝混沌制御〟で他の街に移動させた。」
「で、この騒ぎはマスコミの報道陣に…」
「その点も問題ないよ。戦闘地域は僕の〝混沌制御〟の時間停止区域にあるからね。」
すげえな、この〝CHAO〟とやらは。古代生命体の名は伊達じゃないってことかい。
俺は今日の一動を思い浮かべながら、小さくため息をついた。
「じゃあ、帰るか。」
「そうね―……!あ―」
円まゆかの声を耳にして、俺は振り向いた。
城宝と冬将軍、フレアが驚きの表情を浮かべている。ついでにいうと俺の目の前にはビックリマークがあった。
いや、それよりも、
俺のわき腹辺りに、冷たい感覚が奔っていた。
頭がくらっとする。
目が霞む。
「寿原…俊之ですね。」
冬将軍の声がわずかに聞こえたが、どこから聞こえるのかも分からない。
気がつけば、俺は片膝をついていた。
「うそ、寿原くん…?」
「その名前よりも、馴染み深い名前があるだろ?」
城宝の声に対して、久しぶりに聞く声が、あった。
親友はと見ると、まだ気絶状態にある。
そんな事を確認する余裕がある事に驚いたが、もっと驚いたのは寿原俊之がそこにいた事ではなく、わき腹に鉄の塊が突き刺さっている事でも無かった。
痛みがまったく無い。
だが頭が痛い。
「〝侵略主〟、あなたの狙いだけどね、あたしが阻止してあげるわ。」
「阻止?〝ジェネシス〟と〝ルナティック・サイバー〟以上の力を出せない、お前らが?」
寿原の声がやけに悪役っぽく聞こえるな、おい。
「たとえば、城宝、お前が〝サイバー〟の侵食に耐えているような力…その力は〝サイバー〟以上と言える。それはどこから来るよ?」
ずいぶん難しい問題だ。
「人間の力。〝救世主〟の〝核合成〟で全てを合成した存在。」
ん?俺?
「それが俺だ。」
「並行世界でこの国の人間を全て合成したって訳だよ、きみ。」
フレアがわざわざ俺に説明してくれるのもいつもの事だが…。
なんだろうな、妙な感じがするんだよな。
「つまり、〝ジェネシス〟と人間たち、〝カオスエメラルド〟と〝チャオ〟全てを自分の一部とした訳だろ。」
「なんだ、分かっていたんだね。いつもと違って理解が早い。」
ちょっと待て。俺は何も言っていないぞ。
「なるほど。チャオガーデンも含めて合成したのか。そして〝ジェネシス〟の力で国民を形作った…と。その世界は形だけで、〝侵略主〟であるお前が支配している〝箱〟に過ぎない…と。」
不審な目をその場の全員から向けられた俺は、どうしようもなくぼけっとしていた。
だから何も言っていないって。
え?
じゃあ、今しゃべってるのは、誰だ?
「その世界はお前が法則。結論として、お前が決めた年号はこっちから数えて5年後…」
5年後…。
夕日がかかる町並み、滅びたチャオガーデン、たった一人の知っているやつ。
城宝たちがいない世界。
いや、いなくなってしまった世界。
「誰…?」
城宝の声がする。
「何者なの?」
「〝救世主〟、ふざけているなら―」
寿原の声やら円の声やらフレアの声やらが混ざって、はじけた。
頭痛が消えた。
~白鷹潤一の覚醒~へ続く