~まどかまゆかの激昂~ 三章

「だめ…死んじゃう…」
大丈夫だよ、城宝。泣きそうな顔すんな。
「く…君に守られるとはね…」
減らず口はすげえな、冬将軍。
なあ、おい。
フレア=フォーチュン=ザ=チャスティス。
今度は来ないみたいだな。お前だけでも逃げろ。



走馬燈が、俺の頭の中を巡ってるって事は…そうなんだろうからな。


『君はまだ、死んではいけない。』

『さあ、走って。ここは僕が止める。君は、君の思う通りに行動するんだ。』

『行くんだ!君の背中は僕が守る!さあ、早く!』

『ホットケーキ、天国にあるかな。』

『もう!勝手に行っちゃうなんて!心配したんだからね!』

『黙らない!死んだら元も子も無いじゃない!』

『決戦、ってやつだな。』

『だから、見直したって言ってんのよ。』

『それ、本当に分からねえのか?』


『〝ダイヤモンド〟の最強格と渡り合って3人と相討ち。この世には、既に僕らの仲間はいないのさ。』


ああ、俺、死ぬのかな―
結局、未来は変えられなかったって事か―


『嫌。絶対ダメ。』

何でだろうな。
円まゆかの事ばっかりだな。
何でだろうな。
あいつの言葉、すっげえ記憶に残るな。
何でだろうな。
思えばあいつ、俺に死んで欲しくなかったのかな。
何でだろうな。
城宝も死なせたくないから頑張ってくれたんだよな。
何でだろうな。
俺なんかを。

「死んでたまるか」
俺の口から出てきた言葉は、それだった。
砲弾の嵐。
〝無力化〟は、…?
何で〝無力化〟が通用しないんだ?
他の〝無力化〟による相殺効果?
だが、そんな気配すらない。
じゃあ、〝混沌制御〟の干渉の遅延か?
なぜ、通用しない?
〝サイバー〟の力は、人間の意識とかを侵食して、自らに宿らせるんだったよな。
人間の部分が残ってないと通じないのか。
待て。
だとすれば、何とかなるかもしれない。
あいつらは人間じゃない。
〝合成〟出来る。
だが、〝混沌制御〟の壁は…なるほど。
いちかばちか。
やってみるか。


「〝合成〟!!」
〝カオスエメラルド〟の壁と、奴等の〝サイバー〟の核そのものを、
繋げる。
〝カオスエメラルド〟は、〝サイバー〟の侵食効果を抑える事が出来る。
つまり、さきほどの状態。
人間の状態に、戻せる。
古代の機械龍は、分解された。
だけど、残ったのは1人だった。
3人じゃなかった。
「ありがたい。その力は、私たちには無いからな。〝サイバー〟の合成による能力の向上―すばらしい。」
なんてこったよ。
今度こそ、終わりか―...


「死なせないわ。絶対にね。」
―?
その声は、ここにいるはずのない奴の声だった。
城宝が驚きの声をあげる。冬将軍はにやりと笑ったようだった。
「―なぜ、お前がここに―」
「円…なにやってんだよ、おい…」
「何って、あんたが死にそうだから助けに来てあげたんでしょ。」
いつの間にか、髪の毛が伸びている。
腰まで届く長い髪。
ああ、髪型一つで随分変わるじゃないか、円まゆか。
「〝サイバー〟ね。ああ、〝無力化〟の隙も無いらしいわね。」
「何でそれを…」
「あたしは〝ジェネシス〟の円まゆか。」
〝ジェネシス〟?
「自分の体を機械にして御覧なさい、〝ダイヤモンド〟」
は?いや、そいつは〝ダイヤモンド〟じゃ…
「〝ダイヤモンド〟よ。見えなかったの?さっき、光臨なさったわ。」
「動体視力といい、その傲慢な目といい、凄まじいな、円まゆか。だが、私に勝つつもりでいるのが難点だ。」
質量保存の法則を完全に無視して、そいつは右腕を大砲じゃ飽き足らず、巨大なミサイル発射台にした。
あっという間に発射されたミサイルは、左手のガトリングと同時に向かって来る。
俺が慌てて右手をかざそうとすると、円まゆかが両手を広げた。
「不細工な事ね。もう、もっとまともな攻撃方法は無いの?」
そう言って、円まゆかは、俺が驚いて引くほどの事を、簡単にやってのけた。
つまり、


何にも無い空中から、手も触れずに、巨大な盾を創り出しやがった。


しかも、だ。
ミサイルはそれに吸収されちまった。
「ほほう…やるな、円まゆか。」
「あたし、これでも怒ってるのよ、〝ダイヤモンド〟」
いつもと変わらない表情で、円まゆかは言った。
「そこの腰抜けに傷一つでも付けて見なさい。あんたの体、ブラックホール行き決定よ。」
俺を指差しながら言い放ちやがった。
鋭い眼光で。
「甘いな、円まゆか!」
「さてと、一服も終わったし相手になるよ、きみ。」
聞き慣れたはずの声が、やけに懐かしく聞こえる。
「〝混沌制御〟!!」
「〝ルナティック・サイバー〟!!」
〝ダイヤモンド〟の体中から、一発の巨大な砲弾が放たれた。
俺の目の前に、一本の細長い、黄金に輝いた槍が現れた。
「さ、君の出番だよ。」
「お前がやるんじゃねえのか。」
「何言ってんのよ。あたしとあんたで、あのぼんくらをぶっ飛ばすの。」
にやりと笑ってから、俺は越えられない壁にも見える、その砲弾を見つめた。
巨大なせいだろう。動きが遅え。
城宝と親友、そして冬将軍に目をやって、俺は槍を手に取った。
「次は剣にしてくれよ、フレア。」
思いっきり、地面を蹴った。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第270号
ページ番号
36 / 40
この作品について
タイトル
マゼルナキケン
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ新春特別号
最終掲載
週刊チャオ第273号
連載期間
約5ヵ月9日