~まどかまゆかの激昂~ 一章
〝ダイヤモンド〟による襲撃から、およそ一ヶ月が経つ。
先日、ゴールデン・ウィークを満喫していた俺はどこかへと消え去り、いつの間にか校外学習ムードへと変化していっている。
と言っても俺は最近になってから、例え異世界に放り込まれようと美少女の肩書きが外れる事は無いであろう彼女と共に、修行を行っていた。
毎朝5時から、登校時刻まで。そして、放課後から夜まで。
なぜならば、相手は必ず確実に絶対、俺の〝無力化〟に対策を練ってくるからだ。
俺の能力は何でもかんでも〝無力〟にしてしまうという無能価値最大の能力だが、いかんせん相手にとっては悪魔の能力でもあった。
「ほら、しっかりして。」
あれから嫌に性格が変動した、というよりも以前は遠慮していたのか、城宝【じょうほう】早苗【さなえ】なる少女が俺の上から手を差し伸べてくれる。
今更言う間でもなく、俺は城宝の事が好きだ。
まあ、それを口に出した事は無いが、色々事情があるんだ。色々。
「あ、ああ…サンキュ。」
一番の要因は、円【まどか】まゆか。
ガイアの分身というそいつは、〝サイバー〟の源でもある。
今回の主役も、そいつだ。
〝無力化〟の俺の修行は、今や絶好調に達している。
さあ、マゼルナキケン現代編、いよいよ最高潮っ!
マゼルナキケン~まどかまゆかの激昂~
「きみ、本当に弱いね。」
目を細めながら、頭のそれを困り顔で手に当てる水色の生命体は、太古の昔に絶滅したはずの超古代生物、流れ名を〝CHAO〟というんだが、そこんとこはどうでも良い。
このチャオガーデン専属世界平和の為の奉仕団体通称チャスティスに所属する偉大なる新米将軍様は、しかして笑うと可愛いんだがな。幼さ並に。
自宅で夜中、しかもゲームという三連撃ならず三連劇を繰り出している俺たちだが、それにしても3Dアクション格闘ゲームでフレア=フォーチュン=ザ=チャスティスに敗北を喫するとは大いなる屈辱だ。その上五回も。
「やかましい、黙ってろ。」
今にも溶け落ちそうな柔らか味を帯びている体全体で呆れを表現しつつ、フレアはコントローラを握った。
「大体、きみの方が経験は上だろ?僕は今日初めて〝ぷれいすてーしょん〟の存在を知った。きみ、飲み込み悪すぎ。」
「俺には将軍になる資質も天才と呼ばれる言われも無い。とことん〝無力〟を工夫して戦うのみだ。」
これは城宝の受け売りだが、どうやら俺には〝サイバー〟の気質も戦闘の気質も零らしい。
『たぶん、〝無力〟に原因があると思うんだけど、力の鼓動…っていうのかな…そういうのがね、全然無いから。』
だそうだ。ちなみにこれを聞いた後、俺は三分くらい落ち込んだ。俺、主人公なのに、何か最強の才能を持っているとか、実は伝説の勇者が過去にタイムスリップして来たとか、そういう裏設定は無しかよ。
最も、ゲームでさえ〝無力〟な俺だが、ジャンケンルールにそれは通用しない。運には適用されないようだった。
「ところで、きみの戦闘時の不格好とへっぴり腰を見ていて発案したんだけど。」
「何だ。一言でなくお前の言葉数が多い。」
「減らず口。きみ、やっぱ剣じゃなくて槍とか短剣とか、単純な武器の方が良いと思うんだ。」
「理由は?」
俺が不満オーラを大気圏レベルで発し、尋ねると、
「腰が低いから。」
「却下。」
「理由は?」
にやりと鮫を連想させる口を笑わさせると、フレアは尋ねた。
「剣の方が格好が付く。第一、主人公は剣だろ。」
「それは偏見だね。現に槍を使う主人公も多々いるじゃないか。」
「まあ待て。剣の方がいかにも英雄っぽいじゃねえか。」
「きみは伊達の英雄って事で僕が英雄になる。」
「ダイヤモンドはそもそも〝侵略主〟と流通していると考えるのが妥当なんだろ?だとすれば俺の能力が……っと、それで思い出したんだが…」
「なんだい?」
ソフトクリームを逆さまにした形から常の丸い形に戻して、フレアは逆に訊いてきた。
「〝無力〟と〝合成〟と…〝混沌制御〟も一応使える。戦闘能力はまあまあ。だが、〝無力〟はどこまで〝無力化〟出来る?」
「と、いうと?」
「〝サイバー〟の能力で、機械に変身する前に〝無力化〟すりゃあ機械の変身は止められるか?」
「それは可能だろうね。」
「だとすれば、戦う前に地球全体枠で〝無力化〟を使っちまえば勝ちだろ?」
「そうもいかない。」
真剣そのものといった目付きを見せたフレアはチャオらしくも無く腕を組むフリを取って、真面目に言う。
「並行世界というものを知っているかい?」
「ああ。本で読んだ。確か、」
「つまり、こちらに僕がいれば、〝侵略主〟の世界に僕がいても不可思議では無いはずなんだ。」
「相手も〝無力化〟を使えば…って、事は〝無力化〟に〝無力化〟を重ねるのか?」
「相殺だろうね。」
何てこったい。まさか生きているうちにドッペルゲンガーと出くわすハメになっちまうとは、さすがの俺でも想定の範囲外だぜ。