~フレア=フォーチュンの戦慄~ 四章
恐れおののいている訳ではない。
だが、明らかに戦慄している。
あの、フレア=フォーチュン=ザ=チャスティスが。
「それで、フレア=フォーチュン。君はどんな力を見せ付けてくれるのかな?」
「ふう…。君たち、人間じゃ無いね。」
「それはそこにいる城宝早苗にも然りだろう。」
「彼女は人間だよ。」
即答した。
しかし、その即答の中に、僅かだが、怒りがある。
そう、城宝のために、フレアは怒っている。
「人間らしい感情を持っていれば、それは人間なんだ。事実、彼女はカオスエメラルドに頼らず、9割の〝サイバー〟で生きている。」
「はったりだね。〝アクアマリン〟!僕が城宝早苗を仕留めるから、君はそこのチビを―」
「俺の事、忘れて無えか?」
そう、みなさん俺の事をお忘れです。
ですので、みなさん少しよろしいでしょうか。
背後から〝無力化〟してしまいますよ。
「なっ!いつの間に!」
こいつら馬鹿だ。
「〝合成〟!!」
そこらに散らばっている瓦礫と、そいつらの中の〝サイバー〟を、分離と無力化による合成。
行使すれば、散らばる瓦礫に力が宿る。そして、こいつらはただのカオスエメラルドだ。
「しまっ―」
「これ、彼を馬鹿にした罰ね。」
大砲がいつの間にか大剣になっていた。しかも、瓦礫の山で構成されている。
一体―城宝、お前は、何なんだ。凄すぎる。瓦礫で構成された大剣は、青く澄んでいた。
「〝アクアマリン〟!盾を構成し―「カオススピア!!」
そして、決まった。
彼らは塵となった。
―AFTER THAT―
―「昨日、午後4:40分ごろ、アクロスストリートの外れにて、爆発事故が―」
そんな今朝のニュースを聞きながら、俺は起き上がった。
昨日はさすがにくたびれたぜ。最も、俺はあんまし役に立って無かったが。
「爆発事故として処理されるとは、この世もすごいね。」
ちなみに、その一連の事情も既に元通りとなっている。
城宝とは、あのままだ。チャンスがあれば…とか考えているが、まあ期待しないで置こう。
未来へ思いを馳せると同時に、俺は不安も抱えているのだ。
そう、円まゆかについてと、城宝の死について。
「まあ、そうだな。確かに凄い世の中だ。」
別の意味で言ってみる。この場合、話は通じるはずだ。
「僕でも昨日は怖かったよ。あんな奴らが相手かと思うと、気が滅入るね。」
「珍しいな、お前が弱気なんて。」
「そうでもないさ。僕はいつも強気じゃないつもりだよ。」
「そうか?」
そんな、下らない会話。
なぜ、気付けなかったのかと、後悔するのは俺の特性でもあるらしい。
そういえば円まゆかを最近見かけていない。
学校にも来ていなかった気がする。
何があったのだろう―とか思いつつ、俺はまあ良いやと楽観的に考えてた。
明日、明後日、明々後日、やの明後日と休日続きだしな。
今日の学校生活だけはゆっくりと過ごしたいもんだ。
俗に言うゴールデンウィークってやつ。
俺はフレアに留守番を頼んでおいて、家を出た。
そこに、白ずくめの男がいた。
「やあ、待っていたよ、救世主。」
「―久し振りに聞く呼称だな、それも。」
俺がにやりと笑えたのは、なぜだろう。
そいつの声に聞き覚えがあったからだろうな。
「コード:Winter:か?」
「その通り。冬公爵でも、ウィンター伯爵でも、好きに呼んで。」
「冬将軍か何かのパロディか?」
にやりと微笑む冬将軍。全く、呑気にもほどがある。
「挨拶して置こうと思ってね。」
「なにがだ?」
「君の愛しい最強の〝サイバー〟も含め、全てで10人の最強の〝サイバー〟がいたから。」
「何が言いたい?」
「つまり、僕がその1人な訳だよ。」
冗談だろ?
と、疑いたくなった俺をどうか許せ。
「これから共闘するんで、よろしくという訳さ。」
白いシルクハットと白いマントが似合う奴だぜ、こいつは。
冬将軍は片目を瞑ってウインクした。
「そんで、わざわざ何しに来たんだ?」
「ああ、少しばかり提言をね。破天荒ではしゃぎっぷりの大きい彼女だが、既に〝彼女自身〟の事も然って話してある。彼女も共闘する事になるから、そういう事で。」
「そりゃ大変だな。」
冬将軍、お前は一体どんな性格をしているんだ。
わざわざ言いに来る事柄でも無いだろう。
「なあに、興味が沸いたのさ。僕に勝つ程の腕前を持った少女が、どんな相手に惚れているのかをね。」
「なっ…!」
ぶっ飛ばしてやろうか、こいつ。
「ジョークだよ、ジョーク。まあ、これから苦労するだろうけど、君には諦めないでもらいたい。」
はあ…俺は浅く溜息を付いてから、歩き出す。
冬将軍とすれ違い様に、少し気取るような感じで、俺は言った。
「苦労なら、とっくにしてるんでな。」
後ろで、そいつがウインクしたような気がした。