~フレア=フォーチュンの戦慄~ 二章
泣きじゃくった城宝は、泣きつかれたらしく、俺の横で眠っている。
起きたら話そう。俺の考えている事を、全部まとめて。
それで、また城宝が泣いたら?
そうなったら、どうする?
安易でベタな思考を持つ俺は、赤面するような結論に至ったが、するつもりはない。
「…ん…。」
ふと視線をやると、城宝が薄目を開けて起き上がった。
眼の下に隈が出来ている上、泣いていたせいか充血している。髪の毛なんかぼさぼさだ。
「ごめんな。」
「ん…ううん。」
首を横に振る城宝。それでも俺は、土下座して謝りたい気分だった。
「今までと同じ…じゃ、ダメか?ええと、ほら、円まゆかにばれたら何とか、とかさ、しかも俺の〝無力化〟と引き換えに城宝を誘拐したりと、何だ、その・・・。」
やっぱり、本番になるとうまく言葉に出来んなあ。
要らん妄想を脳内のノイズとして処理し、再び俺は面持ちを上げる。
「色んな問題があるんで、城宝に負担させたく無いってのが本音だ。だから…。」
「もう良いの。」
「でも…。」
改めて、俺は城宝の表情を見た。
そして、驚愕した。
アサガオまで、夕方でも花咲かせるんじゃないかと錯覚するくらいの笑顔。
気付くのが、少しながら遅かったかな。
この笑顔が天敵だ。全く…。
「えっと、その…、改めて!こ、これからも宜しくお願いします。」
ぺこりと頭を下げて、城宝は笑顔のまま、微妙に慌てて言った。
その、一つの行動で、俺の心は完全に虜になってしまっていたらしい。
何も考えられず、ただひたすら、城宝を見つめていた。
段々と吸い込まれる―そんな感覚が俺を前へ前へと推し進める。
脳の信号に対して、体が言う事を聞かない。完全に信号無視だ。
さすがに色んな意味でやばい―そう頭の中に文字だけで過ぎった時、
爆音が響いた。
擬音語にしても、決して「どおおおおおおおおおん」にはならないはずの爆音の現地。
それを探知した親友が、俺の携帯電話にテルをかけてきた。
「なにが起こったんだよ!?」
『まずい!俺等にも良く分からんが…奇襲…いや、〝サイバー〟の…反乱だ!』
「ちくしょう!…待て、〝サイバー〟の?それは、どんなやつだ?」
『6人いる。説明すると長いが、色が違うんだ。』
色…か。
実を言えば、俺はそいつらが何者なのかも知っている。
〝ダイヤモンド〟の名を冠す戦士たち。
史上最強の〝サイバー〟の集団。
「あの…何があったの?」
未来…。突然、怖くなった。
城宝を行かせてはいけない。なぜならば、城宝は相打ちで死んでしまっていたからだ。
「いや、別に…。ちょっと、親友が爆発事故に関わって―」
「嘘。分かるんだから。」
拗ねた表情で言う城宝もかなり可愛いんだが、いかんせん白状する訳には…。
「どうせ私を危険な目に遭わせたく無いとか思ってくれてるんでしょ?」
何だか性格変わってないか、城宝。
「大丈夫。私、負けないから。あなたがいるし…。」
頬を染めて、言い放った。
こうなりゃもう、白状するしか無いな…。
再び携帯電話を取り出す。
「どっち!?」
「右だ!」
叫ぶという形になってしまうのも無理が無い。
城宝の作り出した〝サイバー〟による空中を飛べるスケートボードは、ものすごく速いからだ。
何の目的で、あいつらは来たんだ…。
いや、史上最強の〝サイバー〟を集めた、とか言っていたな。
となると、城宝も最強に含まれる…。
キリの良い数字だと10だが、6人+城宝=7であり、残りは3。
襲撃を受けているのがその内の1人である可能性は無いか?
いや、少なくとも2人はいるはず…6人がかりで来たのだからな。
「あれかな…。」
「突っ走ってくれ!」
「了解っ!」
どこにこんな元気があるんだ、俺にそう感じさせるほどの力を発揮して、加速する。
やがて、敵の姿が見えてきた。
六人六色に輝きを抱く、〝サイバー〟たちを。
「出来る限りで良いから、〝無力化〟して!」
「それはまた、久し振りの活躍が待ってそうだな!」
俺は、地上から出来上がったドームを空想し、その範囲内に奴らを捕らえた。
そして、その空間から全ての不確定要素を掴み取り、排除する。
どうやら、久し振りでも衰えてはいないようだな。
「へえ。どこの誰だい?こんな器用な事をする奴は。」
黄緑に光った奴が、嘲った。
「〝無力化〟だっつの。お前ら、〝ダイヤモンド〟か?」
「ほほう。情報通みたいだな。しかし、齟齬がある。我々の統領、即ち彼の御仁が〝ダイヤモンド〟であって、我々を総称する呼び名は別にあるのだ。」
話が長え。
「〝ジュエラー〟と呼んでくれないか、〝無力化〟の少年よ。」
どこからどう見ても、人間としか思えない奴…。
先程、赤い片言口調の奴が「即ち彼の御仁が」と言っていたな。
〝ダイヤモンド〟か。頭だ。
「君たちは…そうか、GUN研の時の…!」
背後に陣取る1人の〝サイバー〟と思われるやつが、そう言っている。
「お前らは…何が目的なんだ?」
「たぶん、世界平定でしょうけど、〝サイバー〟の力の行使による平定は逆に歪みを生む事になる…わ。」
城宝が偉く真剣な口調で、鋭く指摘した。
そうとも、その通りだ。お前ら間違っているんだからとっとと帰れ。
「そうもいかん。」
黄色の奴が喋った。