~フレア=フォーチュンの戦慄~
第三高、第3学年、Aクラス。
これもまた必然と言えるのだが、俺の親友と寿原【すはら】俊之【としゆき】、同じくして城宝【じょうほう】早苗【さなえ】、円【まどか】まゆかは同クラスとなった。
しかしながら、俺はこの中の1人と、現在疎遠状態を継続している。
何故か?
示してくれた行為(この場合「好意」とも言えるが)に対し、俺は返答の術を持っていなかったからだ。
早く、一生懸命に考えなければならない事は判っているのだが…。
それを円まゆかに知られた場合、ガイアの分身体たるあいつがどのような行動に至るか…。
それが一番の問題なのだ。
が、俺は別にその、当事者が嫌いな訳では無くだな、ええと俺の好みだが…。
色々複雑な事情があるのだ。
そんな訳で、こういう事態で一番役に立ちそうな、彼に頼ってみることにした。
今回の主人公は、その彼、
フレア=フォーチュン=ザ=チャスティスだ。
マゼルナキケン~フレア=フォーチュンの戦慄~
「…で、俺はどうすれば良いのだろうか。」
何だかんだ言っておいて、なにがどうすれば良いか、だ。
…と俺に突っ込みを入れておくが、いかんせん仕方ない。
この場合、俺が最も傷つけたくない人間、それが当事者なのだから。
まあ、好意に対してはうすうす気付いていた。いくら俺でも。
だが、行為で示されたのは初めてだ。―ったので、結構俺は動揺している。
事実、動揺しまくりだ。
「どうすれば良いか、じゃなくて、どうしたいか、じゃないかな。」
「だけど、俺がしたいようにやったら世界が破滅しかねん。」
それも事実であるので…。
「彼女…城宝早苗の方だけど、彼女は少なくとも、君がやりたいようにやる事を望んでいるんじゃないかい?」
「世界が破滅しても、一緒にいたいとかいう、なんつーかラブコメみたいなあれか?」
「そ。」
こいつにそういう概念が在った事自体驚きだが、そんな事言っている場合じゃ無い。
要は、そこまで愛されているのに、答えないってのがどうか、って事だ。
俺は円まゆかの殊勝な顔つきも見たく無えし、城宝のはもっとまっぴら御免被りたい。
「まあ、結果的には君が決める事になるんだし、やりたいようにやれば良いのさ。」
そんな他人事みたいに言うけどなあ…。
こうなったら、親友に助けを求めるか。
そんで、次の日。
相変わらず城宝とは微妙な距離を継続している。
学校が終わるまで待てなかった俺は、俺の待てないこのせっかちな精神の原因はどこからだろうと考えて、あらぬ結論に導き出された。
詰まるところ、城宝と話したかったのだろう。
俺は。
「…で、どうすりゃ良いと思う?我が親友よ。」
ダークグレーの眼鏡がきらりと、日光に照らされる。
もちろん、俺は何とかかんとかという眼の病気を携わっているので、日当たる場所は良くないんだが…。
最近、なにゆえか回復傾向にあるんだ。なにゆえか。
比較的痩せているにも関わらず、強いこの〝アンチ・サイバー〟は、こう答えた。
「お前が決めるしか無いんじゃないか?裏まで考えるのは、後にすれば良い。」
となった。
俺は城宝の太陽が二乗された如し輝きを見たいし、無論見るつもりでいる。
だが、むむう、責任重大だな、おい。
仕方無い、一夜漬けで考えよう。
今日の授業も、全く集中できなかった。
そして、翌日。
城宝のお陰で、近日の俺は不眠症の悩みを抱えている。
「そこまで思い詰めなくても…。」と言われようが、考えてしまうのだ。
たったそれだけで、俺が城宝に対し、通常の女以上―いや、自分でも自覚しているが―そういう感情を抱いているのは分かっている。
こうなれば、最終手段を取るしか無い。
俺は、学校を休んだ。
放課後だろうと思われる時間から、約30分が経過している。
親父はついさっき、意味有りげな視線を俺に送ってから、仕事に出かけた。
フレアは、さきほど席を外してもらった。今頃、チャオガーデンで満喫している事だろう。
で、俺はというと。
受話器を持ち上げて、運命のテレフォンナンバーをすばやく押したところだ。
3回のコール、その後、ぷつっ…という、受話音。
一言、俺は告げた。
「今から俺ん家に来てくれ。」
というわけで、学校一の美少女は我が家に招待された。
ぴん、ぽーん…確か、このベルの音に、様々な思い出がある。
俺は深い溜息を意味も無く付いてから、玄関の鍵を開けた。
ドアが控えめに開く。
「こんにちは…。」
そこにいた姿を、俺はなぜ今まで気付いてやれなかったと自嘲した。
やつれている。しかもかなり。
俺はもう一度、深く溜息を付いた。
そして、とりあえず、城宝にこう、頼んだ。
「お前の出来る限りの力で、俺をぶっ飛ばしてくれ。」
「え…?」
「話はそれからだ。頼む。」
真摯な俺の頼みに、同調してくれたのか、少しうつむきつつも、城宝は右手を振り上げた。
突然、嗚咽が聞こえた。
綺麗な涙が、玄関先でも輝いて見えるのは、それだけ魅力的という事だろうか。
ぶっ飛ばされはしなかったものの、俺は既に見ていられなかった。
だから、家に上がらせた。