~俺と奴らの逃亡~ 三章
「嘘だろ…おい…!」
不意に呟いてしまった俺だが、勘弁してもらいたい。
こうなりゃもう、笑うしか無いね。
仮に恐怖の大王が降って来る、何てのを信用したとしても、実際、目にしている光景は信用出来ん。
夕刻、俺は電話ボックスから、ここ、チャオガーデンへ移動を決行したものの…。
まるで廃墟だ。古代遺跡かなんかかよ、ここは?
幼稚園の保健室に移動するはずなのだが、俺はまるで何も無い寂れた空間に移動していた。
跡形も無いとはこの事だ。
しかも問題は、重要部分を差し置くまでも無く一発で解る。
出口が無い。
…帰れねえじゃねえか。
警戒心をマックスレベルに保ちながら、俺は不安と驚愕に入り混じった心境を抑え、捜索した。
恐らく、チャオガーデンに移動したはずだ。
恐らくと付くのは推測の域でしか無いからだが、そんな事はどうでもいい。
この廃墟―詰まるところ、遺跡みたいな破片と、風化した岩壁だが―は、成れの果てだろう。
チャオガーデンの連結が途絶え、オマケに幼稚園がこれでは、連結どころかガーデンの存在自体危うくなっているに違いない。
俺が来たのは5年後の未来。俺のいた時間から5年の間に、何かがあった―という事か?
しかし、俺がキョウトという街に来た事が疑問だ。
なぜ場所が変わっていた。
…そもそも、俺がここに来た理由とは一体…。
する事も無い上に帰れない。八方塞がりにも程がある。
ここから逃げ出したい気分だよ。全く。
「逃げたいのならば、手伝おうか?推奨は出来ないけど。」
突然声がしたので、俺は慌てて周りを見渡した。
どこにも声の主はいず、何だ錯覚かと思った途端、目の前に、いた。
フレア=フォーチュン=ザ=チャスティス。
「おい、フレア。俺が分かるか?どうして俺はここにいるんだ?」
「ん?誰かと勘違いしているみたいだね。僕はフレアで合っているけど、僕は君と初対面さ。」
「いや、んな訳は―まあ良い。とりあえずここはどこだ?」
俺が不審に思って訊いて見ると、案外そいつは素直に答えた。
「チャオガーデン。一昔前までは「合った」んだけど、今は…この通りだよ。」
「それは分かってる。何があった?5年前から…「5年前?」
話している途中で、フレアは割り込んできた。どうやら性格に変異は無いらしい。
遠慮の無く事実を淡々と告げ相手を自分のペースに巻き込むのが俺の知るフレアだ。
なぜか知らんが、俺はそれで、少し安心した。
「5年前に、〝サイバー〟による革命が起こされたんだよ。史上最強の〝サイバー〟を集めた、〝ダイヤモンド〟が、ここを破壊したんだ。」
「…待てよ。5年前のいつだ?」
「サクラ舞いし曙―発端は4月だね。」
…つまり、となると…。
「これから起こるって事か…!」
「?」
案の定、俺の言葉の意味が分からず、フレアはポヨとやらを疑問符にした。
状況を説明している場合では無い。とにかく、こいつは作為的に見えて意外と単純馬鹿だ。
「…城宝早苗を知っているか?」
「君はどうやら、本当に僕らを知っているらしいね。」
「知ってるのか…。どこにいる?」
「いないよ。」
心外にもあっさりと答えやがった。
「なぜだ?」
「〝ダイヤモンド〟の最強格と渡り合って3人と相討ち。この世には、既に僕らの仲間はいないのさ。」
…正直、終わったかと思った。
なぜ、城宝が死んだ、それだけの事実で俺が落胆するのかは知らん。
だが…もう1人まだいる。
最後の1人。
「円まゆかは知っているか?」
「もちろん。ただ、その人も〝ダイヤモンド〟に力を奪われて―」
「待ってくれ。城宝は俺と一緒にいなかったのか?円まゆかも一人か?」
すると、そいつは首をわずかに傾げて、こう言い放った。
「だから、僕らは君なんて知らないよ。」
話が大分、読めてきた。
こういう時にあれだが、城宝は本当に可愛い。
100人いれば100人全員が、あの二重のまぶたと輝かしいほどの瞳、まるで神が創ったような形の良い耳、そしてそれらで相対効果をもたらすバランスに見惚れるだろう。
ところが正体は最強の〝サイバー〟だ。となれば、俺が憧れる理由も分からないでも無いな。
…済まん。苦し紛れに分かった事実を並べただけだ。
多分、という言葉が付くのを許してもらいたい。
俺はこの時間上に措いての過去では、存在しなかったのだろう。
あるいは、俺の存在そのものが〝無力化〟されたのかもしれない。
もしくは、ここに来た事によって戻る事が出来ず、そのまま―何ていう可能性もある。
しかし、俺のする事…すべき事…それら全てに頼られ、裏切るわけにはいくまい。
「フレア。」
「何だい?」
「タイムスリップの仕方…分かるか。」
「出来なくは無いけど、キケンも伴うよ。」
「チャオガーデンを、こんな姿にはさせない。」
決意に満ちた目だったろう。
俺は、無論、決意していたとも。覚悟と同時に。
どうやら、世界を救えるのは俺のようだから。
根拠も無くそう思えるのは、俺が―...