~俺と奴らの逃亡~ 一章

「ぶはっくしょん!!」
春も真っ盛りで、ちなみにいうと俺は花粉症真っ盛りだ。
花粉の軍団は第三高辺りまで襲撃に来ているらしい。鬱陶しい。
そんな訳もあり、俺は春休みの最中だというのに、浮かれない表情をしていた。
いや、理由はそれだけでは無いのだ。
「あははははは!フレア、あんたギャグのセンスあるわよ!」
ただいま、俺の家で猛威を振るうそいつの名前は、円【まどか】まゆか。
三回連続で言ってみよう。さん、はい。まどかまゆかまどかまゆかまどかまゆか。
このように、恐ろしく言いにくい名前を持つ女は、名前の通り恐ろしく厄介な女だった。
続いて、さきほど俺の伝授したギャグを、新聞読みながら連続で言ってるやつ。
「さて、そろそろニュースの時間だね。」
生意気にも、子供…ではないか。
最近といっても月単位で前の事だが、進化しやがった。
進化との通り人間では無い。絶滅したはずの古代生物、〝CHAO〟だ。
近頃、こいつらは古代生物でも何でも無いんじゃないかと疑っている。
こいつに限り名前はフレア=フォーチュン=ザ=チャスティス。
そして、我が家の公式家政婦、世界最強の可憐さと可愛さと美麗さとああもう全てを持っている上に前略を差し置いて世界最強の〝サイバー〟…。
詰まるところ、天下無敵の美少女、城宝【じょうほう】早苗【さなえ】であった。
「どうしたの? お薬効かない?」
と、俺の身を案じるように、性格の良い女神さまなのだ。
さて、もう2人ほど登場人物が足りんが、それは後ほどご紹介いたそう。
ひとまず、俺の言うべきセリフは、こうだ。
今回の主人公は、他でも無い、「俺」。
〝時空〟に巻き込まれた、悲惨な俺の運命。

決めゼリフを、そろそろ決めて置こうか。


     マゼルナキケン~俺と奴らの逃亡~


春も酣、といった表現がぴったりなのだろう。
春休み、主に俺等にとっては宿題の山積み期間なのだが、それはやって来た。
現在、俺は花粉症に悩まされており、去年一昨年と継続中だ。
厄介にもほどがある。
「そういえば、フレア。春休みには任務無いのか?」
任務も任務で、まさに任務だ。
生き残りの〝サイバー〟を滅ぼす。それだけなのだが、位置測定など、難問らしい。
最も、俺の問題では無いが。
俺はいつでも、脇役でけっこうなのさ。
「無いよ。三月の中ごろに活躍してもらったからね。」
その通りだ。もうすぐ春休みと言う頃、俺たちは走り回らされた。
結果的に、大分な数の〝サイバー〟を消滅出来たのだが、疲れるにもほどがある。
「あんたさあ、頭の中、そんな事でいっぱいなわけ?」
「いや、そういう訳じゃ無い。迫り来る危険は事前に心構えが必要だからな。」
と言って逃げておく。
実の所、大層な事件に巻き込まれた俺としては、今の生活は退屈で仕方が無かった…。


―と思えたらどんなに良い事か!
任務があるとなれば、休日の予定を入れるとか入れないとか、そういうもんだ。
何せ我が家には、太古に行けども天下の重宝、一網打尽のプリンセスがいるからな。予定はしっかりさせて置きたいのだ。
…しかし、この世には決まって不幸の要因が在る。
俺のささやかな希望も、打ち砕かれると決まっている。
だが、少しばかりの休日を過ごすのは悪くないはずだ。
そんな風に、高を括っていたと知ったのは、およそ3日の後だった―


春になれば何らかの展開があったり、さては敵の正体が見えてきたりと、様々な分野で進展があってもおかしくは無いだろう事間違いなしなのだが。
俺に降りかかるとは思っていなかった。
全く、俺は正義のヒーローと違うんだぜ。
「大丈夫? さっきから難しい顔してるけど…。」
「ああ、大丈夫だよ。風にでも当たってくる。」
心配させていては困る。気分転換に外へ出かけよう。
我が家を後にした俺は、付近のコンビニエンスストアを目指した。
しかしまあ、何だ。
俺の人生行路は、いつから敵がどうのとか、任務がなんやらとかなっちまったんだ?
無論、そのお陰で城宝と親しくなれた事は感謝している。だが。

俺が本来歩むべき、凡庸な人生はどこへ行ってしまったんだ。

アラスカ辺りをほっつき歩いているなんて認めねえぞ。
カムバック。何も意に介さず、ぼんやりと過ごす日常。
ちっぽけで拙い事象に囚われつつ、コンビニの自動ドアをくぐった。
が、

既にそこは、日常じゃなかった。



何だ。何が起こったんだ。
…本日日程、4月5日。
それで、ここはコンビニではなかったか?
24hのコンビニエンスストアであったはずなのだが。
この晴れ渡る光景は何だ。
この夕暮れ特有の赤は何だ。
見ると太陽が東に沈みかかり、果たしては何だか街が高い気がする。
俺は、他一切の感情を捨て、ただ一つだけを考えた。

何で俺がこんな目に遭ってんだ。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第258号
ページ番号
26 / 40
この作品について
タイトル
マゼルナキケン
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ新春特別号
最終掲載
週刊チャオ第273号
連載期間
約5ヵ月9日