~城宝早苗の憂苦~ 二章
こんこん、と2回ノック。
城宝を親友に任せて、俺はとある部屋へと移動していた。
どうせ2人部屋だろう。誰もいやせん。あいつ以外な。
カチャっと音がして、ドアが開いた。
そいつは目を見開いて驚いていた。
「何しに来たのよ。」
あえて顔をこちらに見せず、円まゆかはベッドに寝転がった。
「いや、まあな。」
「早苗と一緒にいりゃいいでしょ。」
「あっちは相当参ってんだ。」
「だから謝れって訳?冗談じゃないわ。あたしだってね―」
「違うっての。」
俺が慌てて言ったせいだろう。
疑り深い目でこちらを見つめてから、ついと横を向いた。
こちらも相当参ってるらしいね。
「あのな。泣くほどの事か?」
「なっ…!ななな、泣いてないわよ!」
バレバレだし。
「別に、大した事…かもしんないけど。」
「まあ、確かに俺も悪い。最大の責任は俺に来る。」
正直に語ってしまおう。悪いのは俺だ。
だが、俺もいろいろ初めてでな。よく分からん。
なので、出来ることから始めるのさ。
「だけど、2人して相手の事考えたって意味ねえだろ。」
「だって…。」
そうすねる表情は、ある意味城宝より魅力的に見えた。
ある意味だけど。
「だからよ、とりあえず仲直りしちまえ。」
「…仲直りしたって…ん…変わらないし…。」
「大丈夫だっての。別に俺は、お前を除け者にしたくて―あー、何だ。城宝と一緒にいる訳じゃねえよ。来たいんなら来ていいし。」
唖然とした表情で、円まゆかはこちらを向いていた。
まるで、今にも「いいの?」と言わんばかりの表情だった。
そんなわけなので、俺は心底安心してから、大きく頷いた。
俺は、初めて、見た。
何をって、本当に分からないのか?
円が、心の底から笑うところを―...
とりあえず、こちらの事件で俺の出来る事はやった。
後は本格的にやばそうな事件なのだが、俺は要らぬ事に口を挟みたくはない。
面倒事に巻き込まれる事は分かってるからな。ここは安静に…。
と、俺は自室で、親友と話しながら思っていた。
もちろん、上手く行くような考えではない。
事件は、向こうからやって来るのさ。何もしてなくてもな。
「んで、親友。この吹雪はどうやって治める?」
「俺には考えも付かんね。」
正直に言っておいた。考えられん。
適当に過ごしていれば平気さ。フレアもいる事だし。
城宝が寝ているので、そううるさい事も出来ず、俺は肩をすくめた。
「ところでフレア。犯人は分かったか?」
「今のところ不明としか。僕で分からないんだから、GUNに何か分かるはずが無いよ。」
言うもんだ。自画自賛もほどほどにして置けよ。
「問題…というか、不明な点だけど、凶器が見付からないはずがないんだ。」
「どうして?外に捨てればいいじゃねえか。」
「外に捨てるには、窓から捨てなければならない。外は吹雪だ。彼らの部屋に吹雪が染み込んだら、1日じゃ渇きっこ無いね。」
「フロアから外に出―って、それじゃあカウンターの従業員に…。」
小生意気な〝CHAO〟であるフレアは、大きく頷いた。
そうだ。凶器を捨てられるはずが無いんだ。ほかの部屋で騒ぎがあった情報も無いから…。
持ってなければおかしい。でも、見付からない。
「ん?」
持っていなくても銃撃を発する方法を、俺は知っている気がしたが―気のせいだろう。
とりあえず、考え付いたポーカー必勝法を確かなモノとすべく、トランプを取り出した。
やはり俺が惨敗の気分を保っていると、次第に吹雪の音が強くなり始めた。
まだ強くなんのか。いい加減止みやがれと人間では無い自然現象に文句を思う。
しかし、騒ぎがあった後だってのに、ホテルの内部の音は全く聞こえん。
防音がすごいんだな…。防音…?
「そうだ、フレア。音だ。音。」
「音って?」
「銃撃ったら音すんだろ。聞こえなかったか?」
「防音装置が付いてたら…そ、そうか。付けられないんだ。」
「そうなのか?」
呆れ声でフレアは、俺の質問に答えた。
「狙撃銃だからね。でも、銃撃くらいだったら音がしてもおかしくは無いんだよ。」
「だが音は無かった。付けられないはずなのに付けられる。」
「?」
首を傾げるフレア。読者のみなさまも分かっているころあいだと思うがね。
付けられないはずなのに付いていた、という事は…理を曲げた。
〝サイバー〟だ。
「見付かるはず無えよな。体内にあるんだからよ。」
「ははは…確かに。ところで親友。誰が犯人だと思う。」
アリバイがあったとしても、〝サイバー〟なら話は別だ。
全体にかけてみりゃ良い。一発で分かるぜ。
仕留めんのは任せた、フレアと親友。
「君、〝サイバー〟の使い手の才覚あるかもね。」
フレアが冗談地味た声で言った。
11階。生徒たちは余り来ないレストランがある階だ。
俺の〝無力化〟に引っ掛かったのは、ここ。
…でも、重大な欠点を発見した。
「俺たち、容疑者の顔も知らねえじゃん。」
「大丈夫。僕に任せて置いてよ。」
自信満々に、フレアは答え、親友はダークグレーの眼鏡をついと上げた。