~城宝早苗の憂苦~ 一章
どうしたものだろうか。
俺はじっと考えたが、何も思い付かない。当然だ。
明らかに人生経験が少なすぎるのだから。
先程まで、激情に駆られていた2人の内、1人は部屋に戻り、1人は隣にいる。
もちろん城宝【じょうほう】早苗【さなえ】なのだが…。
「大丈夫か?」
様子がおかしい。
「酷い事しちゃったかな…。」
どうやら、円【まどか】まゆかの事を心配しているらしかった。
それもそのはず。彼女と今、言い争っていたのは、円まゆかなのだから。
だが、話がどうも読めない。俺を取るとか何とか。
いや、嘘だ。本当は分かってる。その原因が俺って事もな。
しかし、知ったところでどうすりゃ良いんだ。
「君の責任だね。」
「あのなぁ…。」
フレア=フォーチュン=ザ=チャスティスが、軽く話す。
最近に大人びてきたそいつは、古代生命体〝CHAO〟で、白い姿で羽が大きい。
「どうすんのさ。」
「俺に訊くな。」
それにしたって、よもやこんな状況で2つも事件を抱えるとは。
何分…あれだ。ほら、巻き込まれすぎ。
すると、何やら向こうの方から、厳ついおっさんがやって来た。
何とそいつは。
「私はGUNの者だが…君が第一発見者との事なので、話を聞きたい。」
「良いですが…今ここでですか?」
「そうだ。」
奥にいる城宝には気付いているのかいないのか、分からん。
知り合いだったらラッキーだとか思ってたが…そうもいかないんだろうな。
「俺より、こいつの話を聞いた方がいいですよ。」
「古代生命体、〝CHAO〟…だと見受けるが…。」
「そうですよ。詳しい事は知りませんが、GUNからぬけ出して来たと言ってます。」
嘘を並べた。GUNを出しておけば、大丈夫のはずだ。
なぜならば、GUNは知り尽くしているからな。大抵の状況を。
城宝が〝サイバー〟だとか、円まゆかがガイアの分身だとか。
「ふむ…それで?」
「1時30分くらいです。物音がしたので出て見たら。」
事情聴取をフレアにしてる光景ってのがとても異様だ。
厳ついおっさんが犬にじゃれてる姿を想像してもらえば分かる。
かなり気色悪い。
「なるほど…とすると、犯行時刻は1時から30分の間、という事になるな。」
「だと思います。」
「協力を感謝する。」
「待ってください。」
フレアが真面目な声を出したので、驚いたのは俺と、厳ついおっさんだ。
GUNの服装を着ていないおっさんは、振り向いてフレアを見据えた。
「事情を聞いておきたいのですが…ほら、もしかしたら僕が疑われるかもしれないので。」
さすがはチャスティスの将軍様。かなり嘘がお上手で。
ふむ、と頷いたおっさんは、メモ帳か何かにさらさらと書いた後、それを破って一枚、差し出した。
素直に、フレアはそれを受け取る。
「現状で知っている、分かっている事全てだ。」
といって、この場を去って行った。
「凶器は銃。種類はAR-15。狙撃用だね。」
「物知りだな。」
得意げに、フレアはにっこりと笑った。
城宝は心配で口も聞けないようだったので、俺はこちらの事件に専念する。
はっきり言って、城宝の方が心配だが、声をかけても無反応。
仕方ないという訳だ。
「生徒は被害者と関連性が無いから、自動的に犯人は割り出される。」
「誰だ?」
「宿泊客の、3人だよ。彼らには事情聴取しているみたいだけど。」
ソファに座るフレアは、こうして見れば可愛いんだがな。
メモ帳を隅々まで調べるように眺めた後、フレアは話した。
「男性が川島さん。女性の1人目が、ショートカットの吉住さんと、ロングの横山さん。」
「で、動機とか、アリバイとか、書いてないのか?」
「本当はもう1人いるらしいけど、ほら、ここ。」
差し出されたのを見ると、名前らしき文字(橋本)が、線で消されている。
その横に、アリバイ有りと記されていた。
他の人は無いのだろうか。
「そんで、謎なのは、3人とも、調べても動機が無い。」
「そりゃそうだろ。犯人も尻尾をそう簡単に出すかよ。」
「だね。だとすれば、手詰まりだけど…。」
お手上げです、という風に、フレアは両手を挙げた。
全く、いざとなった時に役立たないんだからな。この頭の良い奴は。
ともかく、こっちの事件は一時中断。
今度はこっちだ。
さきほど耳にしたところ、城宝と円まゆかは同室らしい。
なので、一緒にするのは悲惨だろう。だから…。
本当に不意だ。下心なんて無いが、俺の部屋に連れてった。
どうせ親友もいるだろうしな。
自分の足では立てないほど参ってしまっているようなので、肩を貸してやった。
友人思いの優しい女の子。まあ、変わって無いな。さっきの気迫はどこへやら、だ。
「大丈夫か?」
「うん…。」
心底情け無さそうに言うので、俺はベッドに寝かせてやると、親友が帰って来た。
困ったなあ、というように目を天井に逸らして、苦笑い。
それで通じたのか、親友は溜息を小さくつくと、親友のベッドに座った。
「事件だってな。」
サイダーを飲みながら、親友は言った。
「だってよ。」
「そんで、何があったんだ?」
「殺人事件だ。参っちゃうよな。」
「そっちじゃない。」
は?だとしたら、城宝の方か?
「ああ。さっき、円とすれ違ってな。あいつ―」
珍しい事もあったもんだ。俺は、やっとこさ溜息を付いた。