~まどかまゆかの決意~ AFTER THAT

大分、明るくなって来た頃。
というか、いつの間に明るくなったんだろうか。
「もう、最低ね。女の子を残して寝ちゃうなんて。」
寝る?残す?何の話だ?
俺は、目を覚ました。


枕枕…って、俺はロビーフロアのソファにいたはずじゃないか?
それにしては枕があるんだが…。
と、俺は初めて気付いた。
「うわあっ!」
脈動が激しい。困ったような、照れたような、そんな顔つきの城宝。
向かい席には円まゆか。辺りにはフレア以外誰もいない。
少し落ち着かせた後、俺はやっと口を開いた。
「わ、悪い…寝ちまってたか。」
「あ、うん。大丈夫だよ。2時に起きたんだから仕方ないよ。」
「甘いわね早苗。」
口をとんがらせて言う円まゆかだが、なぜ俺が2時に起きたと…。
フレア、お前か。
どうやら俺は城宝の膝枕で寝ていたらしい。希少な体験だ。
「と、ところで…事件の方はどうなってんだ?」
「さっき聞いてみたら、進展は無いそうだよ。ホテルの宿泊客にGUNの人がいたくらいかな。」
GUN…俺はそう訊くと、嫌な思い出が蘇る。
追われて追われて撃たれて追われて攻め込んで攻め込んで囲まれて。
「へえ。GUNか。」
「思い入れがあんの?」
「いや、特に。」
俺は円まゆかの質問に、虚言を吐いて答えた。
そういえば、城宝の両親はGUNの所属だったな。って、んな偶然あるかよ。
あれとか。〝侵略者〟。それも無いと思うね。
だとすれば、見知らぬ警察支部の関連者だろう。
俺は背伸びして、飲み物を買いに出かけた。


帰って来ても、まだ誰もいない。
起床時間は7時のはずだが、今は6時なので、起きていないのだろう。
それに…起きたとしても、危険だから出ることは不可。
円まゆかが出れたのは、時間が時間だったからだ。
コーラを飲みながら、俺は考えていた。
ちなみに、城宝によれば、
「GUNは、色んな支部に分かれててね。その中に事件担当があるよ。」
だそうだ。(両親は科学担当だとも言っていた。)
さて、一段落ついたな。俺は第一発見者だから呼ばれる可能性が高い。
ところが、ここで思いも寄らぬ事を、円まゆかは口走りやがった。
「ねえ、前から気になってた事があんだけど…。」
俺と城宝に言っているらしいので、顔を見合わせて首を傾げた。
何だ。
「あんたと早苗って、付き合ってんの?」
ここでコーラを吹き出そうものなら、そうだと断言している様なものなので。
俺はぐっと我慢して、コーラを飲み込んだ。おい、フレア。にやにやすんな。
「んな訳ねえだろ。なあ?」
一応、城宝に確認しておく。すると城宝は、
「付き合って無いよー。」
と、おちゃらけて困った風を装っていた。
いや、実際お付き合い申し出たいくらいだが、いかんせん色々あるのだ。いろいろね。
不審そうな目付きの円まゆかは、二つ返事で納得したんだかしてないんだか。
「じゃあさ、何であんたん家に一緒にいたり、今も一緒にいるじゃない?それに…。」
と、この女は痛恨の一撃を放った。
「リフトに乗る時も、2人して仕組んでたし。」


仕組んでたとは甚だしく違うが…。
気付いていたとは何とまあ、意外であるとも。
「いや、こんな時にそんな話をしてる場合じゃ…。」
フレアが助け舟を出そうとしているが、
「答えなさい。」
飽くまで円まゆかは我を通すつもりのようだった。
どう答えたもんかね。いや、俺としては親友と一緒でも良いのだが…。
円まゆかだと身の危険が迫っているのでな。
だからだ…という言い訳を、俺はなぜか出来なかった。
心のどっかで、どこかは知らんが、城宝と…何だ、それを認めてるからか?
それはどうかと思う。
今思えば、何でだろう。俺には分からない。
俺はただ単に、友人1人の対人と何ら変わりは無い。ちょっとはあるが。
城宝が良いと言ってくれたから、としか言えん。
ところで、城宝はさきほどから妙にそわそわしている。
「どう答える?」
囁いても、城宝、自分の世界に入ってしまっている様だ。
仕方ないと、俺は口を開きかけた—
その時、俺は一生に一度、見る事が出来るか出来ないかの瀬戸際のものを、見てしまった。
「別に…まゆかには関係無いし…。」


あやまあ。俺は本当に驚いた。
人の良い、優しい城宝早苗が、友人の円まゆかに、反抗した。
いや、俺の勘違いかもしれん。だが、そう見えた。
「関係あるわよ。」
「無い。」
「ある。」
「無い。」
「ちょ、待てよ。そういう問題じゃ…。」
俺の言葉にも耳を貸さないくらいいがみ合っている。
珍しい。城宝は争いを好まないはずなんだが。
究極の"サイバー〟にして、最高の美少女の城宝早苗は。
「フレア…説明してくれ。」
この状況を見たら、生徒たちはどう思うだろう。
分からん。
「君も相変わらずだね。」
「うるせ。いいから説明してくれ。」
「自分で気付かなきゃ意味無いと思うよ。」
にやにやと言う姿は、天使というよりは、悪魔に見えた。


「いいわ。正々堂々と、勝負しましょう。」
突然、円まゆかが言い放った。城宝はわずかにたじろいだが。
事件の真っ最中だが、俺にとっちゃ、こっちの方が大事件だ。
「の、…望みところよ。」
咬んでますよ、城宝さん。望"み〟って何ですか。
「あたしは絶対にこいつを取る。」
「私だって…、絶対に取るもん。」
俺はどうすりゃいいんですか?

このページについて
掲載号
週刊チャオ第256号
ページ番号
21 / 40
この作品について
タイトル
マゼルナキケン
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ新春特別号
最終掲載
週刊チャオ第273号
連載期間
約5ヵ月9日