~まどかまゆかの決意~ 三章
…PM:10時。就寝時間。
俺と親友、フレアを含めた3人は、早目に眠りに就こうと、枕投げに参加せずに寝た。
だが、俺はふと、本当にふと、気配を感じて目が覚めてしまった。
「何だ…?」
こうなりゃもう寝れん。仕方無い。
俺はスタンドの小さな明りを点し、辺りを確めた。
見ると、フレアが起きている。
「どうした?」
「とんでもない事になってるよ。みんなまだ気が付いていない。こっち!」
俺は背筋がぞっとした。ただでさえ夜のホテルは暗い。
時刻を携帯電話で確認したところ、2時だった。げ、丑三つ時!
デジタルカメラをポケットに入っていた事に気付き、絶対撮らねぇと、心に誓った。
その時だった。
「うわっ!」
「あっ」
ばたばたと駆け出していく女性は、香水の香りがしたが、良い人ではない。
なぜならば、俺を突き飛ばしておいて何も言わんからだ。
床に落ちたデジカメを拾って、ポケットにしまうと、俺はフレアに唆された。
「もうすぐだよ。覚悟は良い?」
「覚悟って、何の―お…おい…。」
「僕も、予想してなかった。」
嘘だろ。マジか。というか、予想してるとかそういう問題じゃねえ。
まずいだろうよ。何だよこれ。
よくあるオチに「ケチャップでしたー」かもしれん。だが…。
どう考えても、違うぜ、これは。
コメディのシーンじゃない。ギャグとかそんなんじゃない。
まるっきり…!
「死んでる…!」
「ここには警察というものがあるんだろう?呼ぼう。」
「い、いや、警察よりもこっちの方が早い。ここは8階だからな。」
意味不明な言葉だ、われながら。
かなり動揺していたんだから仕方無いだろう。
俺はエレベーターに向かった。
ホテルのカウンターである。
「すいません!8階で人が死んでるんです!」
「は、はい?」
「すぐ来て下さい!お願いします!」
偶然か、都合の良い事に人は全然いなかった。
俺の深刻さを感じ取ってくれたのか、ホテルの従業員はたくさん集まってくれた。
警察も、呼ばれたのだが―
―何ですか、これ。
気晴らしにとフレアに薦められ、外に出てみればそこは…。
クローズド・サークル。まさにこんな経験をするとは知らんかった。
大荒れ吹雪。ブリザードが押し寄せて来たのだった。
よくあるパターンにもほどがあるだろ!
と、ツッコミたくなる俺の心情吐露を察してくれ。
ホテルは、都市中心部よりスキー場寄りなため、高いところに位置する。
聞けば、中心部は雪が結構降っているレベルだといった。
高いところに行くに連れて、雪は吹き荒れる。
誤算だった。警察も来れないな。
天気予報を見たかったのだが…。
テレビつながんねー。
しかし電話は大丈夫だったので、確認した。
ロビーで1人、いや2人、たたずんでいる姿は異様で不気味だ。
従業員はいないし、俺は天気予報で希望が2日後まで無い事を知ると、フロアのソファに腰掛けた。
全く、けったいな話どころか、大事件だぜ。
「それにしても、君も面倒事に巻き込まれやすいね。」
「あのな。褒めてんのか?」
「君の恋人は呼ばなくて良いのかい?」
「寝てるのに可哀相だろうが。」
「へえ。甘く考えすぎだね。」
「何が。」
「来てる。」
俺は予想外の言動に首をごきっと鳴らして振り向いた。
そこに、いた。
城宝早苗。
「お、お部屋にいなかったから、心配になっちゃって…。」
どうやって俺が部屋にいない事を知ったのだろう。
「行ったら…誰もいなかったから。鍵も開いてて…。」
誰もいない?そんなはずはないんだけどな。
俺は親友の表情を思い出す。っていうかあいつ寝てたか?
慌てて飛び出して来たので覚えてない。
「私…何かあったのかって、心配になっちゃって…。」
今にも泣きそうな面持ちと声で言われてはたまらん。
ので、俺は微笑んで声をかけた。
「大丈夫だっての。何にも無えよ。俺にはな。」
「う…うん。」
優しく笑ってくれた。
「事件があったらしくてね、大変なんだ。」
フレアはいつも通り、警戒心を一層深め、報告。
そうだ、これは俺が狙われる可能性も…無いな。
だったら俺を狙ってくるはずだし、あの被害者は俺の見知らぬ人だし。
「外、吹雪?」
「らしい。しかも前が全然見えん。」
「そっか。自由行動、無しになっちゃうね…。」
残念そうに言う。ああフレア、雪を止ませる方法は無いか。
「無理。」
確かに。魔法とは違うもんな。
〝サイバー〟…〝アンチサイバー〟…どっちかっていうと、円まゆかの方が魔法っぽいか。
理を捻じ曲げる、だった様な気がする。
「3日目には止むだろ。そしたら楽しもうぜ。」
「…そうだね。ありがとう。」
わずかに元気を取り戻してくれた。俺はもう満足です。
「しっかし、まあ。」
俺は、少しだけ面持ちを堅くして、言う。
「何だってこんな事になってるんだ。」
時刻は、ついに5時を回った。
夜明けには、まだ遠かった。