~まどかまゆかの決意~ 二章

あの後、話し込んでいた俺たちは、10分くらいして帰って来た生徒達に阻まれ、話を繋げる事が出来なかった。
自由時間を精一杯満喫してやるぜ。
何でも、これから行く先は、トライクロスの神殿の丁度北の位置にある場所なのだという。
ミスティックルーインとは全く反対の方向とか何とかで。
別名をアイシクル・マウンテンと名乗るその山脈は、毎年スキー客でいっぱいだとか。
1日目は、午前が移動で、午後がスキー場。
2日目は、ほとんどが自由時間だ。
3日目になっても自由時間で、4日目午前はトライクロス神殿である。
は、は、は。ま、精々頑張る事だ、教師連中。俺は楽しむからよ。


そろそろ旅館に到着するという頃になって、俺はフレアに再確認する。
「なあ、本当に、何も無いんだよな?」
「そのはずだってば。疑り深いね。」
俺は安心して大きく頷くと、椅子下の鞄から顔を遠ざけた。
下車の準備だ。早いところ準備しておこう。カメラのな。


小遣いを貯めに貯めて買った、多機能付きデジタルカメラ!
メーカーはかの有名な某会社で、俺は何とこの日のためだけに、買ったのだった。
理由はもちろん、城宝早苗の写真を撮って差し上げる為だとも。いや、盗撮では無い。
俺があまりにもにやにやしていたせいだろう。同室の親友が不審げな視線をよこしてくる。
「なにやってんだ?」
「いや、何。修学旅行のお楽しみってやつさ。」
「は?」
親友は首を傾げた。っと、忘れるところだったぜ。
俺は既に準備を終えていて、後はスキーの道具を持つだけという時点で、あれを出してやった。
「よう、フレア。」
「ふうー!やっと出れたよ。」
羽をぱたぱたと羽ばたかせて、空中に浮かぶ。
古代生命体は興味深そうに辺りを見回した挙句、子供の様にはしゃいだ。
「あれは何だい?」
「カードキー。」
「あれは?」
「ヒーター。」
「じゃあ、こっちは?」
「スキー板。」
という具合にな。最も、歳相応にフレアもこうしてりゃ、少しは可愛げがあんのに。
惜しく感じている暇も、そろそろ限度に近い。まあ良い。
夢の世界へと旅立とうではないか。
「フレア、来るか?」
「ん?僕は見られても平気なのかい?」
「こっちで会った事にすれば問題は無え。」
目をきらきらと輝かせるフレアを見たら、ちょいとした問題を抱えるくらいはお安いね。


ただし、バスの中ではしばらく待ってもらう。
俺は鞄の中で大人しくしているフレアにそう告げて、スキー場の到着を待った。
さきほど話したが、やはり城宝はぴょこぴょことした雰囲気で…って分からんか。
とても可愛かったと言っておこう。それが的確だからな。
さてはて、スキー場へと到着だ。
「みなさん、降りてくださーい。」
美人では無いバスガイドさんがそう言った。


スキー場。
白き純粋なる世界の、何と美しき事か!
更にリフト!高いぜ高い!標高が!
デジカメ片手に、俺はかなり高揚気分を味わっていたのである。
ついでにいうと、フレアは俺の傍で飛んでいる。周囲の視線が痛いが許す。
この際だ、派手に遊ぼうじゃないか。
教師から何か言われはせんだろう。なぜならば、俺にはこの親友と、
「久し振りだな、スキーも。」
ガイアの分身たる円まゆか、
「さ!命一杯遊びましょう!」
そして、壮麗・可憐・色気の3拍子揃った城宝早苗スキーウェアバージョン、
「寒いー。スキー、競争しようね。」
以上の3人がいらっしゃるのだ。
3人は成績優秀、親友は特にすさまじく、円まゆかも頭が良く、城宝は上々だろう。
親友に関しては教師から一目置かれているし、円まゆかはこれでも面の良く、城宝はお墨付きだからな。教師も可愛さには勝てん。
デジカメで早速、みなさまの後姿を撮った後、俺は2年ぶりのスキーを楽しもうと滑り出した。
「わあ…!すごい、すごいよ、滑ってる!」
リフトに乗りながら、フレアはまだ高揚を維持していた。
寒く無いのかと訊ねてみたところ、
「僕らも恒温体だからね。」
と、意味の分からない説明をしやがった。
もちろん、俺の隣には親友がいて、グーとパーで決めましょという円まゆかの意見は却下。
何せ、万が一円まゆかと当たってみろ。俺はリフトから落ちる可能性(大)だ。
と言う訳で、滑り終えてコツを覚えるまで、グーとパーはお預けになった。


3度滑り終えて、時刻はそうそう経っていなかった。
昼飯がまだだったなと(予定より2時間早く着いたため)、午後に回し、飲食店に入る。
どうせ女子・男子のグループばかりだからな、体を気にする事もなかろう。
最も、こちらには城宝がいるから、妬んだ連中が嫌味ふっかけて来るかもな。
いやいや、こちらには円まゆかもいるし、小生意気なフレアまでいる。
心配せずとも、大丈夫だー。そう、高を括っていた。
そうだ、高を括っていたんだ。
事件は、昼飯を食べ終わり、俺がグーとパーで連戦城宝と当ててから(実は事前打ち合わせ済みなので)、旅館に帰った後。
風呂から出て、就寝時刻になってやっと始まった。
はっきり言っちまおう。


俺は、こういう事件だとは想定していなかった。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第256号
ページ番号
19 / 40
この作品について
タイトル
マゼルナキケン
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ新春特別号
最終掲載
週刊チャオ第273号
連載期間
約5ヵ月9日