~フレア=フォーチュンの闘争~ 四章

「ちょっと!どうするつもりなのよ!」
指定された場所まで残り少しというところで、円まゆかは叫んだ。
「戦闘要員じゃ、無いんでしょ!」
「黙ってろ。」
「黙らない!死んだら元も子も無いじゃない!」
今度は喚き出した。何でこれがガイアの分身やってんだろうね。
普段は怖くて手も出せないような地域だが、いざとなれば学校より入りやすい場所なのさ。
それに、円まゆかがいるからな。こいつが消えれば全部消える。
人質を持っているようなもの―
―って、誤算だった。俺といる時は〝無力化〟されちまってるんだっけ。
まあ、良い。
「そろそろ着くぜ。お前は戻れ。」
「嫌。絶対ダメ。」
俺は駄々をこねる子供を見る心情で見据えると、さてとばかりに足を踏み出した。
「決戦、ってやつだな。」
扉は開かれた。


荒野の空間。
向かって右手、〝主軍〟…向かって左手、〝反乱軍〟…。
突然の(俺の)入場に、一同静粛。
これで会話もしやすくなった訳だ。俺は一歩前に進む。
〝CHAO〟は主に後ろで遠距離攻撃、人間は剣と盾で攻守。
そして俺、中立。
「何だか知らねえが…!」
俺はいつもなら出さない声の音量で、おそらく耳元で叫んだら鼓膜が破けるんじゃないかってくらいの音量で。
叫んだ。
「いい加減にしろ!!」
多分、通じない。遣ってる言語が違うとか、そういう問題ではないが。
「貴様、誰だ?」
何か2人同時に喋った様なハーモニーで、俺に質問しやがった。
もちろん、俺の答えるのは、ポキャブラリーが少ないからな、1つだ。
「〝救世主〟だってよ!」
俺に自覚は無いので、伝聞情報だが、通じるだろう。
「ふん…やれ。」
喋ったやつが分かった。〝反乱軍〟の将軍というのか、〝CHAO〟が、言った。
一生の終わり、と思われたが、やはり走馬燈は無かった。
カオスエメラルドは無い。〝サイバー〟じゃない。止めることは出来ない。
でも、走馬燈は無い。
つまり、強力な助っ人登場。
「で、どっちが敵なんだ?」


右手が剣、左手が剣、二刀流そのまんまの、俺の無二の親友〝アンチサイバー〟と、
右手が大砲、左手が重火器、羽はえてる、おまけに大砲光ってるととんでもない装備の、城宝早苗が、俺の前に立っていた。
良かった。助かった。俺は心底安堵した。
「左だ。ほら、あの偉そうな黒いやつ。」
「了解。任せとけ親友。」
「ターゲット:将軍様だね。」
親友は両手の剣を思いっきり振り上げて、身を屈めた。続いて城宝。
左手の重火器ぶっ放す。それだけで、兵士の大半は吹き飛んだ様に思えた。
が、
「何なの、あれ…ねえ、効いてないわよ、ねえ。」
「バリアだな。ふざけてる。魔法じゃないのか。いや…。」
俺の能力は〝サイバー〟の無力化、〝サイバー〟との一体化。
何とかなるかもしれん。
「親友!何でもいいからあの将軍に向けて撃て!」
俺は走りながら叫んだ。後ろは任せたぜ、城宝。
元の―ではなく、機械で出来た腕にした親友は、その右手を振りかぶって、投げた。
何を?手を。
物凄い勢いで飛んでいくその手は、何とオプションで剣付属で、俺の前の敵を薙ぎ倒す。
そして、俺の出番だ。
バリアに拒まれたその場所を、イメージで象り、その中心を〝合成〟させる。
バリアは全体に〝アンチサイバー〟が仕込まれ、手は跳ね上がるように戻って行った。
後は、このバリアを全体にイメージで囲って、…消す、それが俺に出来る能力、
「〝無力化〟っ!!」
バリアは消えた。将軍は慄いた。


だとしても、将軍強い。
最強の〝サイバー〟城宝早苗の攻撃をいとも簡単に、盾で防ぐ。
兵士は全員戦闘不能ー。後は頭だけってのに。
「そっちか。〝救世主〟!」
やべえ。目的俺か。
さすがに城宝も親友も間がある。円まゆかは遠目から見ている。
終わったな…でも、やっぱり。
走馬燈は無かった。
黒い〝CHAO〟は7回転くらいして吹き飛び、着地。
俺の前には、見知らぬ白い〝CHAO〟がいた。
頭に、短めの角が、2本、垂れ下がっている。
「無理するね…待ってろって言ったはずだけど。」
「覚えて無え。」
その口調で分かった。
「フレア=フォーチュン=ザ=チャスティスか…!」
黒い〝CHAO〟は驚愕の表情で(最も表情は無い)、言った。


「マスチャツ=ライトカオス=ザ=チャスティス。法に措いて、裁きを。情に措いて、刑罰を。」
「知らん!俺は…俺は事件とは無関係だ。」
「だとしても。…君のカオスエメラルド強奪は法に背く。」
俺たちは(特に俺)、親友と城宝に守られるようにして、傍観している。
ところが、打って変わって、黒い〝CHAO〟は変貌した。
「…親友を手にかけるのは癪だが…分からないのならば仕方が無い。」
「もちろん、僕は元からそのつもりだよ。マスチャツ。」
黒い〝CHAO〟は体の内から光を発し、何と人間ほどの大きさまで、なった。
だが、持つ浮遊物体が無いし、羽も無ければ、手も倍以上、足も倍以上。目は緑で、体は水色に透き通っている。
〝CHAO〟ではない。
「カオスエメラルドを取り込んだっていう事は…。」
嬉しそうに、フレアは笑った。
「君は、昔から変わって無いね。」
そういって、力を失ったのか、地面に落ちた灰色のそれを、右手に集めた。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第255号
ページ番号
16 / 40
この作品について
タイトル
マゼルナキケン
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ新春特別号
最終掲載
週刊チャオ第273号
連載期間
約5ヵ月9日