~フレア=フォーチュンの闘争~ 三章
ふざけんな!
と、胸中で叫んで、俺は左手の洞窟を進んでいた。
俺は何の因果か円まゆかと一緒になっちまった。
ちくしょう、城宝と2人きりを満喫したかった。この際親友でも良い。いや、そっちの趣味は無いが。
俺の勘違いかもしれんが、何と無く円まゆかは怖がっている様だ。
いつものハイテンションよりは幾分かマシだが、素地が良いからな、それだけさ。
「ねえ、さっきの話だけど…。」
「何だよ。」
「戦闘がって、言ってたじゃない?」
空耳だ。さかたはるみだ。忘れろ。
「〝俺とお前は〟戦闘要員じゃない…って事は、早苗とあんたの親友は…。」
俺は隠すまでも無く溜息をついていた。
こいつは人の話を聞いているのか聞いていないのか、はっきりして欲しい。
この間は俺が何言っても無頓着だったのに。
推理まで当たっていやがる。
「ああ。話とこうか。俺もよくは知らんが〝サイバー〟何ていう力を持ってるぜ。」
「〝サイバー〟?」
その単語を初めて聞いたときの俺にそっくりだ。
俺は聞いた話を、もはや何も放送禁止用語に指定せず、話を続けていた。
大分歩いたろうか。
暗い場所にいたせいで、光しか見えん。
外だわ!…とか叫んでいる円まゆかは、いかんせん俺より元気だな。
外に出るなり、俺は眩しくて死にそうになった。やべえ、メガネメガネ…。
かけると、良く見える。
一見して中国庭園を表現する場所で、たたみの…ここは「舞台」と表現した方がいいのかね。
周囲は城壁で囲んである。どこまで続いているんだか。
最初は幼稚園、さっきは宇宙空間、今度は中国庭園。
出るものが突飛過ぎるな。鬼とか蛇とかの方が分かりやすくて良かった。
「ねえ、」
〝ねえ〟が口癖らしい。
「どこにも隠れる場所なんて無いんじゃない?」
「いや。」
俺はなぜか、そこにある、という確信が持てた。
奥にある、〝CHAO〟の金色の像。その奥は見ると壁…ではない。
「ここに、像を移動した形跡もあるしな。」
「…あんた、意外と見てるのね。」
「どうでもいいから、さっさと行くぞ。」
像を右に押して動かし、俺と円まゆかは扉を開けた。
さきほどとは比べ物にならないほど、狭い空間だったが、俺は緊迫していた。
なので、早足で進む。
円まゆかも着いて来ているので大丈夫だ。いや、心配している訳では無い。
左折、右折、また右折。そうこうしているうちに、広間に出た。
人がいる。ぼろぼろの端切れを身に着けた人間で、黒髪…日本人みたいだ。
「〝反乱軍〟に告ぐ。私は救世主の代弁者なり。静粛せよ。」
何か喋りだした。よくみると、右の方に機械がある。
「っ…誰だ?」
まずい。見付かった。敵か?味方か?ん?〝反乱軍〟…?
フレアは〝反乱軍〟…じゃねえよな。どう考えても。
だったら俺と出会ってないはずだ。平和を信仰しているんだから。
「フレアを知ってるか?」
「もしや、フレア=フォーチュン様の事か?」
「そうだ。小生意気なガキで、…様?」
「というと…お前が〝救世主〟か。」
やっとだ。手掛り発見。俺がして来た事は間違いでは無かったらしい。
「すまんな。フォーチュン様は狙われている身だ。ここの隠し通路を開放し、25秒以内に飛び込まなければならん。」
「どう考えても無理じゃねえか。」
「大丈夫だ。転移装置がある。」
円まゆかは話に付いて来ているか…と目をやると、機械を眺めている。
そういやこいつは頭脳明晰だったっけ。機械、分かるのか。
「行くぞ、すぐだ。」
転移開始。俺は目を瞑って、意識の喪失を待った。
だが、いつまで経っても喪失しない。目を開けてみると、そこは…。
違う場所だった。
「転移したのか?」
「ああ。こっちだ。付いて来い。」
〝救世主〟の代弁者は、そう言って、俺らを案内した。
「う…ん…?」
埃と汚れで、かなり負傷している感を覚えるフレアは、白がかった体が色あせていた。
「おい、大丈夫か?フレア!」
「ねえ、ちょっと。」
半目になるフレアの姿には、小生意気さは無かった。
弱っている。確実に。
「何とかなんないのか。」
「私たちの技術では。〝反乱軍〟は抑制出来ぬところまで来ている。こちらはカオスエメラルドを奪われ、確実に不利だ。」
俺はフレアに向き合うと、屈みこんだ。
円まゆかの声がするが、あえて無視する。事態は一刻を争う。
「フォーチュン様は、次代将軍になるお方だ。」
「うるせえ。黙ってろ。そんな事は知らん。」
とっさに思い付いた言葉を口にする。
フレアはもう後が無い。しかしそんなのは認めねえ。
この〝無力〟の俺が認めないんだ。「死」すらも〝無力〟になる。それが俺だ。
「良いか、フレア。」
別に何も考える必要は無い。元ネタはこいつだ。
「お前はお前の思う通りに行動するんだろ?お前は俺の後ろを守ってくれるんだろ?だったらくたばってる場合じゃねえだろ!」
その言葉だけで充分だろうと判断した俺は、すぐ立ち上がった。
「代弁者だっけか。〝反乱軍〟はどこだ。」
「行くつもりか?無茶すぎる。相手は〝サイバー〟じゃないぞ。」
「それでも、止めなきゃ、俺の立つ瀬が無いだろ。」
俺は円まゆかの制止の言葉にも耳を傾けず、そいつの言葉を待った。