~フレア=フォーチュンの闘争~ 一章
あいつがいなくなってから、1ヶ月という月日が経っていた。
そろそろ春の風もわずかに混じっており、俺の通う第三高も、2月を迎えた。
2月後期に行われる予定のスキー合宿3泊4日を前にして、生徒も気が盛っているようだ。
そんな中でも俺は、フレアがいなくなってからというもの、気になってばかりいた。
やっぱり、何かあったのだろうか。
念のため、親友にも頼んでみたのだが、不明らしい。
俺はかなり訝しんでいる。
しかし、方法が無い。
どうするか…と考えても何も出ない。
その事に悔しさを感じるが…〝無力〟を主とする俺には出来そうに無い。
自嘲して見るが…さて、どうすべきか…。
そして、俺は思わぬ結論に辿り着いた。
今回の主役はフレア=フォーチュン=ザ=チャスティス。
みなさん、準備はよろしいかな?
マゼルナキケン~フレア=フォーチュンの闘争~
その日の帰宅後、俺は定番となっている電話を、いつもと違う面持ちでかけた。
かけた先は、かなり間の抜けた美少女、その正体は最強の〝サイバー〟。
城宝【じょうほう】早苗【さなえ】である。
彼女は事あるごとに、俺を助けてくれるのだった。
『もしもし…。』
「もしもし。俺だけど…。」
って、今思ったけど、これ一歩間違えたら振り込め詐欺だよな。
だが、意思疎通を図るまでも無く通じてしまうのだ。イッツテレパシー。
『あ、うん。こんにちは。』
「おう。で、質問なんだけどさ、良いか?」
『良いよ。』
可憐なる声で応えてくれた。
「フレアの事だ…どこ行ったか、知ってるか?」
『フレアくん?…まだ、帰って来てないの?』
どうやら知らないらしい。おいおい、まじかよ。
俺には心当たりがないので、二言三言交わした後、俺は受話器を置いた。
すると、俺の思い違いで「某所の鬼」ではなく、「某鬼」と呼ばれていた父親が言う。
「よう、息子。あの小さい生き物の事か?」
「お、親父…いつの間に起きたんだ?」
「お前も青いな、まだまだ。あの小さい生き物の行き先なら、ほれ。」
親父は俺に向けて、フレアより小さい紙切れを出してきた。微小な文字で書いてある。あるが。
読めん。それは奇怪な文字列だった。
「…これはどこで?」
「さあな。自分で考えろ。」
ヒントはこれだけ。おそらくだが、フレアの居場所を示すものだろう。
奇怪な文字列は、少なくとも俺には解読不能だが…。
「じゃあな。俺は仕事に行ってくる。」
「ああ…髪の毛切れよ、親父。」
大きなお世話だ、親父は片手を挙げてそう言った。
という訳で、第何回だ?…俺の家会議が開催された。
通称をサミットと名付けようか考えてた内に、美少女の割に妙な設定がある城宝、普通の人間に見えて実は〝アンチサイバー〟の親友、そしてなぜか、
「へえ。フレアって古代生物のあれ?」
「うん。ええっと、チャスティスって組織に加盟しているらしいけど…。」
ガイア、つまり地球とか世界とかの分離体、幼馴染でも何でもない厄介者、円まゆか。
俺の家の前に集まった連中を見たまどかまゆかは、一言で参加を決定しやがった。
というか俺は望んでいない。頼んでもいない。
「それで?」
「それで…何だ。」
「その暗号、解けたかって訊いてんの。」
ああ、これか。俺は親父が渡して行った奇怪な文字列に目を落とす。
半円が一つ、分度器の様に描かれており、その横には十字と、逆三角形が描かれていた。
全く分からん。誰か解け。
「うーん…半円…半円…ハーフ…円周率の半分?」
「いや…むしろ半円は時刻を示すものだろう。十字の逆三角はトライクロスだ。」
「トライクロスって…大神殿じゃないの!」
どこだそれ?
「歴史でやってたじゃない。〝白宮殿〟トライクロスよ。」
どうやって行くんだ?
「方法は知らないが…遥か東だぞ。」
「無理じゃねえか?」
俺が諦観気味に言ったが、そういえば転送装置とか無いのか、と俺のどこかで反論した。
一同、沈黙。仕方が無い。とりあえず半円を解くことに専念した方が良さそうだ。
時刻は5時をとっくに過ぎて、30分を回ろうと―
「それだ!」
「何がよ。つーか分かるように言いなさいよね。」
「半円は、抽象的に示した『図形』だ。何かの模写。要するに…。」
「そうか、太陽だ。」
水平線、この際地平線でも良い、そこに太陽が沈みかかってる様子、または昇る様子。
時刻は6:00…じゃねえよ!
「沈むのが早いんじゃないんですか?」
ああ!まずった!でも、可憐な声で言う姿はまたもや絵になり、俺は放心状態でうっとりとしていた…ところで意識を引っぺがした。
時間無えし!
「待って。有り得ないじゃない?トライクロスって遠すぎるわよ。」
「でも、実際暗号はそう示してるんだぜ。他に場所が…。」
やはり俺が諦観気味に言うと、天使が言って下さった。
「逆三角形…トライクロスと相対関係にある場所…?」
ここで言う天使とは、俺の頭脳内部に在住する奴ではなく、現実に存在する美少女だ。
逆三角形で相対関係にある場所。宮殿とは相対関係って事は狭く、そして黒い。
狭くて暗い空間…まさか、ね。
「よくある事だけど…まさか有り得ない…。」
「何よ。言いなさいよ。」
「じゃ、言うぜ。」