~城宝早苗の衝動~ AFTER THAT

翌日の学校では、何やら円まゆかの行動がおかしい。
妙に俺を見てニヤニヤしてくる。何だ、何のつもりだ。
それでも俺は、それを気にしないように振舞った。
城宝早苗が休んでいる。
なぜか俺は、昨日の寿原の言葉を思い出していた。

『城宝早苗の行動には注意しろ』―

なぜだ。なぜなんだ?
城宝がどうしたって?
仕方無い…と、俺は放課後、親友に、こう告げた。
「久し振りにお前に用事がある。」
「ほう。聴かせてもらいたい。」
親友は全て分かっているのか、笑みをもって答えてくれた。


放課後、俺は親友と、ニヤニヤするフレアを前に、ファーストフード店にいた。
親友は電話で、「コード:Winter:か?すぐに頼みたい事がある。」と言っていた。
俺は、親友に頼んだのだ。
「城宝がなぜ今日休んだのか、調べてくれ。」
と。
かなり手際良く調べ上げた親友は、まあ着いて来いと、鞄に入れたフレアと共に俺を呼んだ。
なぜかニヤニヤしているフレアも、ちょっと微笑混じりの親友も、訳が分からん。
そうこう歩いているうちに、城宝を見つけた。
いつしかの宝石店の前にいる。
「何やってんだ?学校休んでんのに…。」
「分からないの?君の―」
「フレア。」
親友がなぜかフレアをたしなめた。俺の何だ。
宝石店の前にいた城宝は、やがて歩き出した。何か小包を手にしている事に、俺は初めて気が付いた。
向かった足先は、俺の家。
いや、誰もおらんぞ。親父仕事だし。
「ほら、行って来なよ。」
「城宝が待ってるぞ。女を待たせるなよ。」
「は?」
何言ってるのか分からん。
そう思って、俺は押し出されるように歩き出した。
「あ!」
城宝はやがて俺に気が付いた。
「よう。どうしたんだ?」
俺が返事をすると、城宝は小包を隠すように持った。ばればれだ。
そんな動作に微笑ましい気分を満喫していると、城宝は言った。
「あの…これ…。」
小包を差し出してくる。
俺は不意を突かれて固まった。出てきた言葉は、
「俺?」
頷く城宝。
「お誕生日、おめでとう。」


やっと気付いた。
そうだ、昨日は俺の誕生日だった。ああそうだった。
忘れてた。
ん?だとしたら昨日渡せば良かったんでは?
「えと…帰り際に渡そうと思ってたら…。」
そうか、円まゆかがいたもんな。
でも、何で今日学校休んだんだ?
俺の質問に答えられず、城宝はうつむいてしまう。
突然、親友が話しかけてきた。
「ほら、もう暗いだろう?」
「あ!そ、そうだね。じゃ、また明日―」
は?全く訳が分からない。あ―
去る寸前の城宝に、俺は叫んで告げた。
「あ、ありがとう!」
にっこりと微笑んだのを、俺は見逃さなかった。


「で、結局、何で休んだんだ?」
俺が解散後、フレアに尋ねて見ると、意外にもフレアは笑っていなかった。
そこにあったのは驚き。それだけだ。
「本当に分からないのかい?」
「ああ。」
「彼女は、君にプレゼントを渡せなかった事にショックを受けてたんだよ。だから学校に行く勇気がなかったんだろうね。」
全く、最強の〝サイバー〟だとは思えないほど弱弱しいよ―フレアはそう言った。
ショック…?いまいちピンと来ないのは、俺の人生経験が浅いせいか。
まあ、良いや…と納得する前に、俺は訊いて置きたい事があった。
「昨日…寿原は何で俺にあんな事を言ったんだ?」
「それも分からないかい。鈍いね。」
悪かったな。で、どうしてだ?
「彼は君に嫉妬していたのさ。」
「どうし―」
それだけは、いくら鈍い俺でも分かった。
俺は、笑う気にもなれず、されどいつもとは違う感情を、苦笑で表す。
最も、フレアはにっこりと笑っていたがな。



夜、更けても眠れずにいた俺は、仕方ないと寝るのを諦めて、リビングに降りた。
朝帰りの親父はまだ帰って来ていない。
その代わりと言っては難だが、フレアが起きていた。
「よう。何やってんだ?」
「ああ…不思議な事があるんだ。」
俺が、そいつの浮遊物体を持っていたとしたら、確実に「?」に変化していたであろう。
もうちょっとマシな言い回しをしやがれ。俺には分からん。
「何だよ。」
「チャスティスと連絡が取れない。」
「不思議なのか?」
「いつもなら、君たちがテレパシーと呼ぶ伝達方式で連絡を取り合うんだけど…。」
テレパシー…また魔法みたいなヤツか。いや、似て何とかだっけ。
「〝混沌制御〟でね。一時的に意識を移動させるんだ。」
「いや、説明しなくていい。どうせ分からん。」
だが、妙じゃないか?連絡が取れないとなると。
こりゃ、そっちで何かあったと考えるのが妥当だろうな。
「…調べて来る。」
「って、こんな夜更けに?」
「僕はこれでも地位が高い。まだコドモレベルだけど。だけど、戦闘に関しては自信がある。」
ちょっと待てよ。どうやって行くんだ?なんなら俺も一緒に―
「ダメだ。これは僕の問題だよ。君たちは関係無い。」
「…仕方ねえな…戻って来いよ。お前がいねえと不都合なんだから。」
俺が忠告しておくと、フレアは黙って頷いて、深刻な表情で言った。


「…君らも、気を付けて。」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第252号
ページ番号
12 / 40
この作品について
タイトル
マゼルナキケン
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ新春特別号
最終掲載
週刊チャオ第273号
連載期間
約5ヵ月9日