~城宝早苗の衝動~ 三章
フレアの提示した作戦とは、こうである。
「御託言って、地図もらおう。中にいるんだとしたら、作業員で、指定の場所にいるはず。」
という事だ。
つまり今、地図をもらって、係員の居場所まで知っている俺は、係員を片っ端から当たってみればいい。
ついさっきのヤツは、〝無力化〟しても何も反応が無かった。白だ。
3人いるから、残り2人のどちらかだろう。
事実、3人の係員たちは地図をもらっていないらしく、指定の居場所にいるらしい。
その上、3人とも新米だという。
「なんだか、暗くて怖いね…。」
そう言って俺の服の袖をつまむ城宝は、心なしか、俺に頼ってくれているようだ。
俺が夢の世界に浸っていると、2人目の居場所に辿り着いた。
…?んなバカな。係員がいねえ。
「いないぜ?」
「ううん…。」
「ちょっといいかい。」
鞄から出たフレアは、係員がいるはずの壁を本来なら地図で開かない壁を、こんと叩いた。
にやりと微笑んで、フレアはこの壁を指す。
それは、鏡のように見えて、鏡ではなかった。
「万華鏡ってやつさ。」
「ここなのか?」
「そうみたいだね。」
俺が押してみると、開かない。
「違うよ。ほら、ここに…。」
スイッチがあった。
「ええ…ですから、さきほど何らかの力が発動された感覚が…。」
奥から声が響いてくる。しめた、遊園地の外だ。
ここなら人目にもつかんし、すぐさま終わりに出来る。
任務は〝サイバー〟の分離と破壊だ。あくまで。
「何回も言わせないでくださいよ…ですから…。」
「動かないで。」
城宝が、脅しの入った声で言った。いつもとは違った声に、俺も多少驚く。
そいつは、若い青年の姿をしていたが、すぐ俺らの正体に気付いたらしい。
「くそっ…こちらA−―」
「〝無力化〟!」
俺の「攻撃」に不意を喰らってか、そいつは携帯電話を取り落とした。
そのうちに、城宝が〝サイバー〟を披露、右腕に槌を装着させると、そいつの腹に叩き込んだ。
「ぐへえっ!」
倒れた。
「呆気なかったな。」
俺が、もっと悶着があるかと想定していたのを裏腹に言った。
「そうだね。でも、電話も切られちゃったし、あれ、誰かの〝サイバー〟だったんだね。」
そう、あの携帯電話は消えた。〝解除〟されたのだろう。
フレアは鞄の中でおとなしくしている。
俺たちは今、観覧車で一時を過ごしていた。
時刻は5:30。もうそろそろ閉園だ。
「あーあ…進展があるかと思ったんだけどなぁ…。」
「でも、楽しかったろ?」
俺が微笑みを交わらせてそう言うと、彼女は満面の笑みで答えた。
「うん!」
観覧車から見る景色は、どこまでも美しい。
ただ、俺の向かいに座る彼女と比べて言えば、まだ色褪せている。
そう感じた瞬間だった。
だから、忘れていたんだ。
携帯電話を見ることを。
遊園地の受付に戻って来た俺は、何と無く、本当に何と無く城宝と会話していた。
だから、目の前が目に入っていなかった。
初めて気付いたのは、勘の良いフレアで、次に気付いたのは、城宝だ。
そして俺が最後となる。
「やっぱりここだったのね。」
冷や汗がたれた。まずい。そうだ、気付かなかった。
こいつがいた。
果たしてそいつは、円まゆかであった。
「何やってんの?こんなところで。」
こんなところを強調する奴の笑みは、悪魔的…である。
俺と城宝は視線だけで意思疎通を図ると、俺は溜息をついた。
まあ―こんなもんさ―と。
だが、ここで終わりではない。
何とか無事に帰宅した俺は、即座に買い物に出かけた。
親父はよっこらせと仕事に出かけていったから、晩飯が必要なのだ。
しかし、問題はここで起こる。
「今日は…お疲れだったな。」
俺がふと、声のかかった方向を見ると、そこにはなんと…。
「誰だっけ。」
「てめえ…!覚えとけって言ったろ!」
ん?…ああ!
「寿原俊之!何でお前がここに!?」
「はあ…気付かなかったのか。それともとぼけてるのか?」
何のことか分からん。
俺が肩をすくめる動作で表明してやると、寿原は周りに誰もいない事を確認して、右手を出す。
すると、その右手が…。
「…〝サイバー〟か。」
「ああ。俺は〝アンチサイバー〟だけどな。お前の親友と一緒だよ。」
右手は見事に、鉄球になっていた。
「へえ。驚きだな。」
「あんまし驚いている様には見えねえが。」
「悪かったね。だが、どうして俺にそれを?」
「簡潔に言う。城宝早苗の行動には注意しろ。」
なぜいきなりそんな事を言うんだ。
「あいつはGUNも裏切った奴だぞ。」
「知ったこっちゃないね。少なくとも俺はお前の助言をあてにするつもりがない。」
「あのなあ…。」
「じゃな。」
俺は会話を無理矢理中断して、そのまま帰宅しようとした。
が、寿原は違ったようだ。
「気を付けろ!何を考えているか、分からねえ奴だ!」
俺は右手を挙げて答えてやった。