~城宝早苗の衝動~ 二章

俺は、大き目の、肩から提げている鞄を見た。
城宝の持ち物だが、重たそうなので俺が持ったのである。
中身は分かっている。
「なあ…本当にこんなところに〝サイバー〟がいんのか?」
「僕の情報に間違いは無いはずだよ。」
鞄のそいつが答えた。
そいつは、絶滅したはずの古代生物、〝CHAO〟…フレアである。
傍らの城宝を見ると、なにやら楽しげだった。
場所が場所だからな。何せ遊園地だ。
受付で、チャスティスから支給された一日券を出すと、やはり微笑んでいた。
おい、だから違うって。
しかし、城宝はそんな事を意にも介さず、憧れる様に遊園地のアトラクションを見ていた。
「私、こういうところに来るの、初めてなんだ。」
どこまでも明るく言う城宝に、俺は尋ねる。
「友達と来た事ないのか?」
「うん。」
目がきらきら輝いていた。


〝CHAO〟は最近、めっきりに白くなり始めた。
飼っているのは俺なんだが、城宝のおかげだろうか。
〝CHAO〟は人の心に反映して姿かたちを変えるという。
俺は善人ではあるまい。だが城宝は素直であるから、城宝が「飼い主」だろうか。
そんなフレアはむっとしたまま鞄の中から動かない。
俺は頭をかいて、時間の確認と居場所の確認を行った。
円まゆかは移動中。時刻は11:40。
昼飯だな。
「先に昼を取ろう。腹が減っては何とやらだ。」
「そうだね。私もお腹すいたし。でも、〝サイバー〟って…。」
「ああ、意外と物好きかもね。こんなところで働くなんてさ。」
密かにこの任務を楽しむ城宝、何と無くだがいつもと違うフレア。
日常と違う雰囲気を味わいつつ、俺はいつしか微笑んでいた。


ちなみに言うと、〝サイバー〟とは、「己の体の血液成分に、特殊かつ一時的な化学反応を起こして、機械化させる能力、またはその使い手」の事である。
現に、この俺の向かいに座って、スパゲティをおいしそうに頬張る城宝も、それだ。
最強の〝サイバー〟を微塵も感じさせないが、彼女は恐ろしく強い。
目の当たりにした俺がいうんだから間違いは無い。
俺はラーメンの残りを吸うと、再び携帯を構えた。
12:30。時間はまだかなりある。アイツの居場所は…。
電波の届かないところにあるらしい。圏外と出ている。
仕方ない…だが、圏外なら、地下だろう。デパートにでも行っているのか。
俺は、楽観視していた。
「どうしたの?」
城宝は、スパゲティのカスを口の横に付けながら、それに気付かず、訊ねた。
「ああ、時間を確認したんだ。そこ、付いてるぞ。」
「え?…ああ!」
いや、恥ずかしいのは分かるが、そこまで照れることもないだろう。


「さて、本業開始。探しますか。フレア。」
「まず、〝無力化〟を広範囲に当てれば良いと思うよ。居場所を特定出来る。」
「ん…。」
城宝が声を出しかけた。
どうしたんだろう…そう思って振り返ってみると、ああ、そうだったな。
「フレア。まだ時間はあるか?」
「閉園が6時だから、それに間に合わせれば良いよ。」
「よし。城宝、どこから回る?」
花が咲き誇るような笑みを見せた後、城宝はあちらこちらを指差して、俺を引っ張りまわした。
初めて思ったよ。だが、悪くない。
城宝は円まゆかに似ている。


ジェットコースターを10回くらい乗り継いだころだったろうか。
3:00になった。
閉園間際に観覧車は見に行こうと言う事になって、俺はほっと溜息をつく。
城宝、意外と体力ある。〝サイバー〟だからか。
お化け屋敷は「大嫌い」と食わず嫌い表明をしていたが。
っと、俺の出番だな。
「ええっと…。枠を取って…全体をイメージして…消す…。」
思わず呟きがもれてしまうが、気にしない。
そして決め台詞。
「〝無力化〟」
探知出来た。
「ミラーラビリンスだ。ほら、鏡の。」
「うん。行こう!」
あんだけアトラクションをクリアしていったのに、まだ走る元気がある城宝に、
俺はほとほと感心していた。
まるでキャラが違う。でも、悪くは無い。


一見して迷路とは思えない外見のそれは、鏡の迷宮。
鏡だらけの立体迷路だ。
俺も、一回だけ経験したが、何分鏡だらけなので分からない。
中も薄暗かった。俺の探知だと、この迷宮の中のどこか…。
に、潜んでいるはずなのである。
「入ろう?」
「あ、ああ…。」
「ちょっと待って。」
フレアが不意を突いて言った。
「どうした?」
「この中にいるの?」
「ああ…そうだと思うぜ。」
「僕に策がある。」
俺と城宝は顔を見合わせ、フレアの入っている鞄に耳を傾けた。
そう、それは至極簡単な方法である。


俺たちは鏡の迷宮受付までやって来た。
「すいません、中で友人とはぐれてしまったんですが…。」
「あ、そうなの?ごめんなさい、今、館内放送が故障中で…。」
好都合だ。俺は城宝に視線をわずか送って、続けた。
「迷路の地図見せてもらえませんか?あ、あと、迷路の中に園内の作業員って、いますか?」

作戦遂行開始。俺たちは迷路の中に入って行った。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第252号
ページ番号
10 / 40
この作品について
タイトル
マゼルナキケン
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ新春特別号
最終掲載
週刊チャオ第273号
連載期間
約5ヵ月9日