~城宝早苗の衝動~ 一章

ふわりと風の舞う新学期。いや、これは。
雪だ。白い…まさに純粋としか比喩しようの無い雪。
俺の通う、第三高も、やがて新学期を迎える。

だが、そう上手く行くと思うか?

自慢では無いが、俺は人生で上手く行った事なんて、数えるほども無い。冬休みは幸せもあったが、その分苦労を味わった。そんなもんさ。
苦労の方が多いような気がするのは、俺の感覚がおかしいわけではない。
でも、一つだけ言わせてもらいたい事があるんだ。

苦労に色んな要素を混ぜすぎなんだよ!


   マゼルナキケン~城宝早苗の衝動~


頭のてっぺんを禿げさせた校長が、誰にでも通呈させる笑顔で式辞中である。
そう、始業式。まるで必要の無い式典だが、最も、かなり退屈だ。
立って話を聞いているこっちの身にもなってみろ。
寒い―いつもならそう思っているだろうが、今回は勝手が違う。
なぜか。
俺には予定があるからだ。始業式も、そして一定の事象が終わった後に。
ふと、列の左前に目線をやる。こちらに視線を向けていた彼女が、優しく微笑んでくれた。
俺も微笑み返す。すると彼女は頬を染めて前を向いた。
冬休み、年明け前の一連の事情から、〝ただのクラスメイト〟を返上し、〝母親代わり〟となってくれた彼女の名前は、城宝【じょうほう】早苗【さなえ】。
黒い長髪を冬の雪と対照的な輝かしさと純粋さを含ませ、一本結びにした「美」少女である。
さて、今回の主役は彼女となる。
なぜならば俺がそう決めたからだ。この〝無力〟な俺だが、周りも〝無力〟にするのだからな。
大した特技では無いかもしれないが、全国民から感謝されても良いくらいだ。
だが、幸せには不幸が付き物であるのだ。
そこで、俺は前にいる親友に、頼んでおいた事柄がある。

「あいつの居場所を追尾する携帯電話が欲しい。」

埋め合わせは今度何かおごってやると伝えておいた。
これが無いとダメなんだ。ああ、あいつを一応、紹介しておこう。
年末年始ハイテンションと悪魔の双眸でお馴染みの、破天荒化け物少女。
世界の分身だとか何とかというそいつは、円【まどか】まゆかという。
俺の人生にこいつは必要無かった。誰か別のやつに譲ってやりたい。
しかし、そんな事はどうでもいい。何せ俺の人生で初めての…。
「おい、おーい、おい!!」
「は?あ、何?」
見知らぬ男子生徒が俺に話しかけている。教室で。
ああ、いつの間にか教室に移動していたのか。つい夢の世界に行ってしまった。
…ん?教室?
「教室ぅ!?」
「うわっ…何だ、変だな。何かあったのか?」
髪の毛が立っている男子生徒は、俺の記憶が正しければクラスメイトだ。
見知らぬというのは印象に残っていないという意味である。
「い、いや…何でも無え…ええっと…あー…。」
「いい加減覚えろよ…寿原だ、寿原!寿原【すはら】俊之【としゆき】!」
「ああ、寿原。ありがとう。何だかボーっとしてたみたいだ。」
何せ昨日は眠れなかった。ああ、学校よ、早く終われ。
やがてLHRは終了し、放課後がやってきた。
俺は彼女にアイコンタクトを図ると、早々に帰路についた。


時刻、10:30。準備完了。家には親父が「髪の毛切り行くの面倒」とか言って伸ばしっぱなしの髪の毛に癖をつけながら寝ていた。
だが、俺は置手紙もせずに、即、家から飛び出る。鍵?んなもん知らん。
待ち合わせは…ええっと駅前だったか。


11:00五分前。駅前到着。ホームにはたくさんの人が行き交うが気にせん。
俺は売店でコーヒーを買った後、飲みながら待った。
5分後。予定通りの時刻に、彼女はやって来た。
「ごめんね…待った?」
茶目っ気を少し出しました、という風貌で、城宝は笑顔でやって来た。
「いや、全然。」
俺には不似合いだろうが、笑顔で返す。この際必要なのは雰囲気だ。
コーヒーを飲み干し、空き缶のゴミ箱に捨てると、すぐさま俺は振り向いた。
「行こうか。」
「はい。」
そう、この時は上手く行っていたんだ。
この時は。


電車に揺られながら、俺は病気を携わった目を、周囲に向けてみる。
カップルか何かだと思っているんだろう。
微笑ましく見つめている老人、不思議そうに眺める子供、城宝に気のありそうなおっさん。
実は残念だが、カップルじゃあない。これから行く所は断じて違うのである。
例えそこが、GUNの遊園地だとしてもだ。
彼女に与えられた任務は、〝サイバー〟の残存の消滅。
〝与えられた〟というのは、もちろん、とある団体から。
チャスティス・コーポレーション。コーポレーションとは名ばかりの、NGO組織だ。
何せ存在が明るみに出ていない。
無論、これは2人きりの「デート」何かじゃない。
実は3人いるしな。これも明るみには出せんが。
俺は揺れる電車で、上の吊革に手が届かず、壁に寄りかかっている城宝を横目で盗み見る。
何とまあ、うとうと、漕いでいた。
少し驚かせてやろうと、携帯を取り出して、振動させてやった。
「ひゃあっ!」
衆目を集めた。まずい。
「ごめん。そんなに驚くとは思わなかった。」
「いえ…あ、ううん。いいの。昨日あんまり眠れなくて…。」
とっさに俺は「もう一つの携帯電話」を見る。
点滅している地点は…俺の家の近くだが、残念だったな、俺は移動中さ。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第252号
ページ番号
9 / 40
この作品について
タイトル
マゼルナキケン
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ新春特別号
最終掲載
週刊チャオ第273号
連載期間
約5ヵ月9日