~まどかまゆかの危機~ 七章
『受け入れるのも、拒むのも、君の選択だよ。』
「親友!〝サイバー〟を圧縮して、分離させろ!」
「あ…ああ…!」
苦しみながらも力強く答えた親友は、銀に光る玉となる。
光る玉は俺の内に取り込まれ、〝侵略者〟は両手を重ねた後、どっかで見た光る機械の剣を作り出した。
そいつが俺を貫く前に、俺は右手を剣に変え、それを受け止める。
それに意識を集中させろ。枠を取れ。それから消せ。それが―
「〝無力化〟ッ!!」
〝侵略者〟の左手と右手は文字通り消え、そいつはうろたえた。
俺は余った左手で時間を確認し、左手で「それ」を取り出した。
緑を輝かせる「それ」で、俺は円を呼び寄せた後、「それ」をしまう。
「殺さぬのか?」
「俺には出来ねえ。しかも俺は、人殺しに来た訳じゃない。」
振り向いて、帰路につこうと思った矢先…。
地震が起こった。
「壊滅する。間に合わなかったようだな、〝救世主〟」
「なっ…待て!」
「直に〝サイバー〟の大軍が押し寄せてくるだろう。そうなれば…。」
そいつは、さっきまで円が捕らわれていた壁に消えた。
絶体絶命…!どうする俺!
『簡単に言えば、瞬間移動と』
「出来るか、俺に…?」
左手で円を抱え、元に戻した右手で「それ」を、再び手に取った。
そう。
「〝混沌制御〟」
体が熱される。激痛が奔る。
気が付けば朝日が俺たちを出迎え、親友も元通り。
円は助かった。
時刻は5:58を示している。世界は無事…なのだろうか。
「よくやってくれたな、親友。」
「お前もな。つーか俺、とことん〝無力〟だったぜ。」
「いや、お前がいなければ、今頃は…。」
と、俺の親友はそこで区切り、こう言った。
「ホットケーキが焼けていなかったな。」
……相変わらずだな、親友。だが笑ってやる。
「ははっ…あはは…ははははははは!」
「助かったんだよな、本当に…。」
「いや、そうでもない。」
気が付けば、今度は大軍に囲まれていた。
「絶体絶命?」
「何度目だよ、それ。」
溜息をわざとらしくついた俺は、指で「3」と示す。
疲れて〝無力化〟出来そうにねえや。おじゃん、だな。
せめて円だけは助けようと、庇う様に構えた。いや、下心があるわけじゃない。こいつが消えるとやばい。
「一斉攻撃!」
「なあ、親友。」
俺は、遺言をとびっきりのジョークにしてやろうと、口を開いた。
「ホットケーキ、天国にあるかな。」
「地獄だろ、俺たち。」
「地獄の業火で焼いたホットケーキか…焦げてそうだな。」
死の感覚よ、せめて残すなと、目を深く…深く瞑った。
爆音が響いた。
「おい、親友!」
俺に話しかける。何だ、やっぱり天国だったとか?
「目開けろ!見てみろ!」
俺は迅速に目を開けた。
右手が大砲、左手がマシンガン、何か大きい羽ついてる。
果たしてそれは、城宝の姿だった。
「じょ、城宝!?」
「下がってて。」
右手の大砲が光り始め、キュイイイインとか鳴ってる。
〝サイバー〟の大軍が、一発で吹き飛んだ。
すっかり美麗なる少女と化した城宝は、
「もう!勝手に行っちゃうなんて!心配したんだからね!」
と、涙目で叫んでくれた。
「あ、ああ…でも〝サイバー〟ってすげえ。本当にすげえ。」
「照れるね。」
聞き覚えのある声が耳をついた。
そうだ。俺の恩人でもある、絶滅したはずの生命体―。
「これを持って行って。」
緑色の、小さな宝石みたいなのを差し出された時は、驚いた。
「僕らの力の凝縮体。役に立つよ。」
「それ」を、〝CHAO〟たちは、こう呼んでいるらしい。
〝カオスエメラルド〟
「ま、一件落着だな。」
俺が気の抜けた声で言ってやった。
少しばかり騒ぎになったので、自宅で会議中だ。
親友は、「処理が何とか」といって帰った。
家には、壮麗の美少女と〝CHAO〟そして俺となる。
ああ、円は家に送ってやった。親はいなかったが、好都合だろう。
「長かった。こんな体験、二度とごめんだな。」
「お疲れ様。」
満面の微笑みで俺に言ってくれる。努力のかいがあったってもんだ。
「これで世界も無事かぁ…よし!飯でも食うか!」
「何言ってるのさ?」
「は?」
〝CHAO〟は俺を地獄に叩き落す事間違い無しの一言を放った。
「〝サイバー〟もまだ残ってるし、彼女の力は消えてないよ。」
「きっと狙ってくるはず…だから…ね?」
どうやら、俺の苦労はまだ続くらしい。
俺はわざと、笑いながら溜息をついてやった。