~まどかまゆかの危機~ 六章
〝今から、GUN研に行ってくる。
お前はここにいろ。俺を守るなんて考えるなよ〟
「遅いな。もう少し早く来ると思ってたんだけど。」
30分の遅刻だろ。大目に見ろ。親友。
俺は予定よりも若干早めに、GUN研究所の前に到着した。
高層ビルというよりは、ドーム状に近いそれは、一目でそれと分かる。広い。
「心の準備は?」
「おいおい、やけにネガティブじゃねえか。」
「そうだな…よし。先手は任せてくれ。」
俺は突然の行動に驚いた。
何とまあ、親友の右腕が一回り大きくなり、肌は銀色に煌いている。
更に指などというものはなく、まるっきり「剣」だ。
「…〝サイバー〟か。」
「対〝サイバー〟の〝サイバー〟さ。」
俺と親友は顔を見合わせて、研究所へと飛び込んだ。
この世界の存続を、どれほど継げるか、分からんけど。
少なくとも、それはきっと、誰もが望んでいることだと信じて。
思いを秘めながら、俺は研究所へと飛び込んだ。
内部は見た目誰もいないものの、時間が時間なので訝しくは無い。
むしろ当然、好都合とさえいえるが、親友は違った。
「ダメだ。まとめて来るつもりだ。勝算が無い。」
「なら、全部俺が無効化してやるよ。行こうぜ。」
煩悩だろうが、使い勝手ってもんがあるのさ。
季節が季節だからだろうか。冬独特の寒々しさが肌を差す。
巻き込まれていなければ、今の内は家でヒーターでもつけながらゴロゴロして、漫画でも読んでただろう。
その代償として、世界は知らぬ間に消えるがな。
2つ目の曲がり角を、親友の後から曲がると、何と無く気配があった。
この〝無力〟な俺だが、ただの〝無力〟じゃない。
一気に周囲も巻き込む〝無力〟だ。
「来るぞ!」
親友は険しい顔つきでそう言うと、右腕から武器に変化した剣を、まっすぐ、横に伸ばした。
廊下は、一瞬で戦場と化した。
銃火器やなにやらで攻撃してくるが、どうせ〝サイバー〟だろう。
と思って、俺が前に出ようとしたら、親友は叫んだ。
「ダメだ!まだホットケーキが焼けていない!」
そうして、右の剣を振るい、3人、みねうちだろう、倒れた。
俺は幼少のころ、不良に絡まれていた時を思い出す。
二人して逃げるのに、合図として使った言葉だ。
何かの理由で、まだ俺は出てはいけないのだろう。
今度は2人…3人…4人と、あっという間に全滅した。
「すげえな親友。」
俺の賞賛に、親友は剣を床に突き立てて答えた。
「おそらく、この奥だ。」
慎重に歩きながら、親友は忠告してくれた。
つまるところ、もうすぐ、なのだろう。
俺は時間を確認する。4:50を示していた。
力の起動までは残り1時間ほど。それまでに何とかしなければならない。
頑丈な扉が、行き止まりの封鎖となっていた。
どうやら―ここらしい。
「俺が先に行く。親友、いざとなったら逃げろ。」
「ははは…。」
笑って答えて置く。
扉を開けた。時だった。
まるで十字架にでも吊るされているような形で、円は捕らわれの身となっている。
意識は…どうやらない。
だが、無視出来ない存在が、そこにいた。
「やあ、ようこそ。キミは〝サイバー〟…じゃないな。」
「要すると〝アンチサイバー〟ってやつだ。お前が…。」
「異世界人…いや、異次元人かな。そういう〝侵略者〟だ。」
「GUNの司令官はどうした?」
狂っているとしか思えない笑みを浮かべるそいつは、科学者の風な出で立ちをしている。
はっきり言っちまおう。親友すげえ。
俺は足がすくんで、動けねえってのに。声も出せん。怖え。
「邪魔だったのでな。材料に使った。」
「やっぱりだ…単刀直入に言う!その女を―
パアン―
親友のダークグレーのフレームをつけた眼鏡が、割れた。
俺のすぐ左を通り過ぎたそれは、間違いなく銃弾だ。
「自己紹介がまだだった。私は〝侵略主〟の側近。〝サイバー〟だ。」
「くっ…!」
何と、そいつの右手の、普通なら人差し指がある場所には、銃口があった。
撃つべく構えたが、親友は左手に避けて、間一髪交わす。
続けて、〝侵略者〟の左手から、短剣が飛んだ。
それら30本ほどを右の剣で弾き、親友はそいつの懐に―
パアン―
左肩を撃たれた。まずい、大丈夫か!
「さて、キミは誰だ。」
今度は俺の番…とはいかねえぜ。
さっきまでは足がすくんでいたが、親友のピンチだ。
うかうかしてられっか。
そいつは右手を構えた。大丈夫。出来る―出来る―
パアン―
瞑った目を、無理矢理開けた。
そこは天国―ではなく、現実だった。
銃弾が空中で止まっており、灰となって、砂時計の如く崩れ落ちた。
「貴様っ!?」
うっしゃあ!
…で、どうやって倒すの?