~まどかまゆかの危機~ 五章

これで全部だな。
明朝のために準備を開始した俺は、まず風呂で疲れを癒し、目覚まし時計を4時にセットした。
続いて、懐中電灯、携帯電話、鏡、ハンカチ、その他もろもろを家中からかき集めたのだ。
その頃には既に、時刻は9時になっていた。
というか、城宝はまだ起きない。いや、不都合ではないが。
残りの時間をどう過ごすか考慮してみたものの、そう簡単に思いつけば苦労はしない。
とりあえず皿洗いに励み、護身用の体術(誰にでも出来る!カンタン護身用術)を本で身に付けてから、しばらく待った。

そういえば、城宝の親はどうしたのだろうか。
先程の会話から察するに、どうも城宝は両親が嫌いならしいから、しかし姉の話はよくする。
とにかく、俺は連絡網の電話番号にかけてみた。

―ツーツー―ルルルルルルル―ただいま留守に―

いないみたいだ。
なぜか安心した俺は、ひたすらに計画を練ろうと思ったが、ここで驚くべきことが起こった。
時が、…止まった。
さっきまでの、カチコチという夜中やけに気になる音がしない。
だが、俺と、城宝は呼吸をしている。
まただ。
俺は不意に、にやりと笑っていた。


「こんばんは、〝救世主〟」
「やっぱりお前か、〝CHAO〟」
ちょっと気取ったつもりで返してみる。そいつはいつの間にか、ソファの横にいた。
「あの時は余り話せなかったね。」
「聴きたい事がたくさんあるぜ。困るくらいだ。」
「そうだね。まず、僕の能力?君の力?」
「知ってる事、全部だ。」
俺がどえらく自信満々で余裕の態度だったせいだろう。
そいつはわずかだったが、戸惑いを見せた。が、すぐに笑みに戻った。
「ご察しの通り、君は〝サイバー〟を無力化出来る。」
「どうやって?」
「〝サイバー〟に干渉されれば、感覚的に分かるはずさ。受け入れるのも拒むのも、君の選択だよ。」
「分かった。次だ。」
「僕が使った力は、〝混沌制御〟の力。古来、〝CHAO〟に赦される力さ。」
効果は?
「3つ。時の静止、物体の転移、そして、干渉の遅延。」
最初の『時の静止』は分かる。後の2つはさっぱり分からん。
「簡単に言えば、瞬間移動と、相手の力の発動を遅く出来る…のさ。」
魔法…?
「似て非、なるもの、ってやつだね。」
分かった。他は?
「その子の正体について。」
…は?


「その子は、GUNの司令官の娘で、最強の〝サイバー〟の持ち主さ。」
有り得ねえ…いや、親がGUN?自分を〝サイバー〟にしたから嫌っているのか?
まさか、敵…?んなばかな。俺は死んでも城宝とは戦わん。
「違うよ。君を守る為さ。彼女は一連の事情を知っている。〝サイバー〟もその為に手に入れた力だよ。」
「俺を…?そうか、だから昼の時、あそこにいたのか。」
「いや、偶然だと思うな。彼女はGUNを裏切ったから、君の居場所は分からないし。」
というと、何だ。なぜ城宝は俺を助ける?
「それ、本気で分からないのかい?」
〝CHAO〟は小さく微笑んだ。


時刻、10時。場所、自宅。
未だに城宝は睡眠状態だが、さすがに俺も眠気が増大していた。
うとうとしながらも、睡魔と対決していたが、相手が相手だ。
俺は夢の世界へフェード・アウト。気が付けば朝の3時だった。


目覚ましが鳴る前に起きたのは、久し振りも久し振りだ。
そんなに重要か?世界が滅びたって、別に構いやしないだろ。
だが、なぜそんなにも張り切るよ?
円まゆかのため?いや、あいつのためには働かんし。
自分を守ってくれる城宝のため?違うな。さっき知ったばかりだ。
では、困っている友のため?仕事で忙しい親父のため?
違う―心のどこかが、そう反論している。
何のためか、ではないと。
世界は、こんなところで滅びてはいけないのだ。
確かに、下らない世界だとも。戦争で勝っていい気になって、困っている国を助けもしねえし。
でも、ダメだ。滅びてはいかん。
間違っている。
この世界は、こんなところで滅びるほど、安くは無い。


パンを食べながら、俺はそんな事を思っていた―

このページについて
掲載号
週刊チャオ新春特別号
ページ番号
5 / 40
この作品について
タイトル
マゼルナキケン
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ新春特別号
最終掲載
週刊チャオ第273号
連載期間
約5ヵ月9日