~まどかまゆかの危機~ 四章
俺は、ベッドで休養を摂りながら、ずっと考えていた。
誰かが仕組んだ様に、出来すぎた話。だが、現実。
どうする事も叶わない。どんな方法を使っても。
力の行使には、少なくても12時間はかかるという。
要するに、12時間後、世界は呆気なく、おじゃん、だ。
どうすべきか。残りの時間をどうやって過ごす?
いや、俺に何か出来る事は?
…………………。
無えか。そりゃそうだ。俺は凡人だしな。
諦めて、コンビニでも行くか―
『君は、君の思う通りに行動するんだ。』
―なんだ。そうだ。アレは何だった。
思い出すのは楽だろう。ほんの2時間前の事だ。
〝CHAO〟…そいつの出現と同時に現れたあれは…。
あの現象は…時が止まった…?
GUNの銃弾は、確かに空中で止まっていた。それに、GUNはなぜ俺を狙っていた?
円まゆかの力を唯一無力化出来るから…?
待て。円まゆかの力を使って奴らは何をするって?
〝サイバー〟の強化…力の無力化……!
それだッ!!
俺はベッドから飛び起きた。
…と、勢い良く起きたが。
夜だったのを忘れていた。でも、動くとしたら夜だ。
いや、夜の襲撃は予測されてしまうだろう。
ここは早朝に回って、その間に準備を整える。それが良い。
そうと決まれば、まずは腹ごしらえだ。
そう思って一階に降りてみると、仕事に行く寸前の親父がいた。
昔、「某所の鬼」と呼ばれていたらしい親父は、
「さっき女の子から電話があったぞ。あー…城宝だったか。そんな名前の子からだ。」
置き土産を残して言った。
ピン、ポーン…
「こんばんは。」
少し照れ気味で話す彼女は、昼間の奇跡の主。
城宝早苗だった。
「ああ、どうぞ。」
「お邪魔します。」
先程の電話の主でもある彼女の要件とは、ズバリ。
『あの…お夕飯困ってませんか…?』
と、よそ行きの口調で喋っていた。
彼女は俺の家の事情を知ってか、電話してきて下さったのだ。
そう、家には母がいない。俺が九歳のころに死んだ。
だから、夕飯はコンビニで済まそうと思っていたのだが…思わぬ奇跡。
「わあ…広いね。」
「普通じゃないか?ええっと、そこがキッチンで、テーブルはそこ。好きに使っちゃって。」
「はい。腕に振るいをかけてつくるわ。」
…頑張って来た俺への祝福ですか。それともこれから頑張れと?
文字通り、腕に振るいをかけて頑張ってくれたのか、
かなり久し振りの手料理を味わいつつ、俺は感嘆していた。
「すごく美味しいよ。」
「えへへ。味わって食べてね。」
さっきまで考え事をしていたためか、かなり腹が減っている。
彼女は俺の向い側のソファに座を置いているが、退屈じゃないか?
「いえ、全然…。」
少し頬を染めて言った。
「悪いな。わざわざ来てもらっちゃって。」
「ううん。大丈夫。暇だし…、」
わずかにためらった後、口を開いて、
「昼食の時のお礼もあるから。遠慮しないでね。」
…GUNに捕らわれたのが城宝だったら、俺は単身乗り込んで必ず助け出すだろう。
間違いない。
俺が夕飯を食い終え、城宝にごちそうさまと声をかけようとすると、
「すぅ…。」
城宝はあどけない笑顔で寝ていた。
世界三大美少女に入れたいくらいの可憐さがここに存在する。
俺のベッドに寝かせようか、いやいや、そんな罰当たりな。
次第に俺の脳内では、悪魔と天使が対決し始めた。
「良いじゃねーか。ついでにそのベッドに忍び込んで…。」
「待つんだ。考えて見ろ。軽蔑される。それに、ここでそんな話題はダメだ。」
「へん…つまんねえの。」
「……でも、ちょっとくらいなら良いよ。」
ちょっ…それで良いのか天使。
遂には俺は、理性に従い、毛布を持ってきてかけてやった次第で、
時刻は8時を回っていた。