~まどかまゆかの危機~ 二章
『説明がしたい。今から空いてるな?どこだ?』
そんな事情で、俺はまたもや客を持て成していた。
ファーストフード店で昼食を摂りつつ、何だか訳の分からない話をされそうだ。
口火を切ったのは、ハンバーガーを食べ終わった俺だ。
「そんで、親友よ。何があったんだ?」
ダークグレーの眼鏡をかける、多少痩せた男こそ、俺の親友だ。
俺の奢ってやったポテトを口へ運んでいる。ちょっとは残しといてくれよ。
「良いか。今から言う事を信じてくれ。」
「ああ?話によるね。」
「いいから、信じてくれ。」
その本気の眼差しに恐れ入った俺は、わずかに首を傾げた。
「良いけど。」
「じゃあ、言うぞ。まず、円。あいつはこの世界の分離体だ。」
…予感的中。訳の分からない話、決定だ。
説明を俺流に解釈すると、こうだ。
まず、まどかまゆか。あいつはこの世界だかガイアだかそんなのの分身。
とんでもない力を秘めているらしい。何せ分身だ。
ただ、普通の分身じゃない。
「円は世界そのものでもある。円が消えれば、世界そのものも消える。」
続いて、あいつは理を捻じ曲げる力も持っているらしかった。
物理を曲げる。スプーン曲げよりある意味マジックだ。
更に、親友はこうも言った。
「お前と一緒にいる時間だけは、普通の人間になっているんだ。」
俺らは円を常時、監視している―そうも言った。
「理由は分からない。でも、円はお前といる時間だけは、ガイアから分離しているんだ。」
「待ってくれ。百歩譲ってその話を信じたとしよう。なぜ俺に言う?放って置いても問題ないだろう。」
微小な動きで顔を伏せた後、ポテトの最後の一本を食い尽くした親友は、こう言った。
「円を狙っている奴がいる。」
そいつらは円の力を利用しようとしているらしい。
「親友と見込んで、お前に頼みがあったんだ。」
「聞かせろ。ただ、俺には何にも出来る自信が無いぜ。」
「お前といる時は普通の人間に戻る。それを続けていれば、普通になるかもしれない。」
可能性の低い賭けだな。
「だけど、どうしろってんだ?あいつん家に電話するか?」
「ちょっと待ってくれ。」
ポケットからチップの様なものを取り出すと、親友は喋りだした。
「コード:Winter:か?」
『そうだよ。どうかした?』
「対象の様子はどうなってる?」
『とりあえず変化は無い…と思うけど…。あっ!!』
そのチップから声がしているらしく、俺にもその声が聞こえた。
そう、最後の叫び声も。何かあったのか?
『まずい!GUNのやつらに気付かれた!』
「ハッキングか?」
『いや、こっちじゃない。対象の方だ!』
血相を変えた親友は、チップをポケットにしまうと、俺に言い残していった。
「すまん。追って連絡する。」
………俺にどうしろと?何があったんだ。
そのまま帰るのも面倒なので、時刻(2:30)を確認する。
まあ、久し振りに散歩でもするかなと思ったが束の間、奇跡は起きた。
黒い髪の毛を惜しげも無くさらし、天下一の美少女。
長い髪を一本結びにして、日光に呼応して明るく輝く。
宝石店の目の前に一人、たたずんでいる姿でも、異様の光景を放っていた。
ああ、これがオーラ。彼女こそ、クラスメイトにして最強の女子生徒。
城宝【じょうほう】早苗【さなえ】であった。
まさに一城の宝と言ってもおかしくは無いその美麗。
狂ってるとか言うな。
「あ!…こんにちは。」
邪気の欠片も無い笑みで俺に話しかけるその姿は、恐らく天国のガブリエルが光臨したらこの姿を取るのではないかと思うくらいの可憐さだ。
「よう。買い物か?」
当たり障り無く答える。ちっ、どうせ仲良くなるならこっちの親にして欲しかった!恨むぜ。
だがそんな事はどうでもいい。まさに今、偶然か奇跡か分からないが目の前におわしている。
「ううん。ちょっと散歩。」
「一人で?」
「うん。」
まずい。これではナンパだ。実際、俺はそのような行為に及んだ事は無いのである。
「一緒にお昼摂らない?何だかお腹空いちゃった。」
危ねぇ危ねぇ…もちろんですとも。
俺の臨時収入2000円は、無残にも昼食代で1000円消し飛び、更に飲食店に入ったところで奢ることは俺の胸中で決定しているので、残りも消し飛びそうだ。
まあ、何だ。たまには親父も役立つじゃないか。臨時収入、ありがたく使うぜ。
「でも何であんな所にいたの?よく来る?」
「いや、暇だったんでな。昼飯食った後に散歩してた。」
「あっ…ごめんなさい。」
「大丈夫だよ。ちょっと歩き疲れてたところだったしね。」
事実だ。先程の下らない戯けた話で俺の集中力はほとんど無いに等しい。
さて、これからどうするか。
「あの…よかったら、お買い物付き合ってもらえないかな…?」
「もちろん良いよ。」
「本当っ?ありがとう!」
いやはや。
今だったら俺はどんな神様でも信じてしまえるであろう。
感謝します大和神。いや、キリスト。
そうこう買い物している内に時間が過ぎた。
夕暮れも迫ってきている。俺の天国の時間は終わりらしい。
「じゃあ、ね。今日はありがと。」
ためらいがちに言う姿がまたもや素晴らしい。
家まで恒例なのか送ったものの、さすがに家に上がる度胸は無く、俺はその場を去った。
だが、そこで見た光景は、おぞましいものだった。
「対象を発見。すみやかに確保せよ。」
GUNのご登場である。