11-滑稽な怪物-1
「迎撃専用、遊撃隊一号二号」
―――
そして、生きている全ての参加者が集まった。
偶然か、"chao"で逃げようと企てる者、逃げられる力のある者のほとんどが、眠りに落ちていた。
いや、逃げられる力など珍しいものだ。"chao"は至って攻撃的である。
"chao"が芽生え、そして自由に操れるようになった者が増えたのだろうか。
現在、13:50。雨は止むことが無いが、小雨へと変化している。
参加者は、70名強へとゆっくりと減っていた。
また、あの台場に皆が乗り上げる。
海に不自然に作られた、この足場は一体誰が、何のために作ったものだろう?
隠遁。あの時生きていた彼には、この島で何が行われているか。何があるか。ほとんど、網羅している。
実は、この足場。聖職者が既にこの正体を自分なりに解き明かしていたのだ。
あの時入った倉庫。位置からしても、彼が捜査官と出会い、"背理"と出会った倉庫の天井の一部なのだった。
下で製品を作り、こうやって出す。それにしては不自然な面ばかりだが、近いものがあるだろう。
その時、彼はそこにいた。
"緑化"である。
バリケードが張られ、捜査官が回りを囲んでいるまさにその輪の中にいた。
暴動が耐えないこの場には、ちょっと耐え難い。
早く帰れるなら帰る。それが良い。
その時だ。海にぽかりと浮かんでいた、捜査官の巡視船である。
真ん中辺りの船底から、そのまま上へ亀裂が入った。
当然、左右両端に重さが行っているので、バランスを崩し横に倒れた。
潮水が勢い良く飛ぶ。
場は騒然となった。
船の向こう側に、大きな大きな頭が見えていたのだから。
ひたすらに滑稽な形をしていた。
悪夢としか思えなかった。
身の毛もよだつ、地球を飲み込んでしまうのかとさえ思う大きな怪物がそこにいた。
捜査局はただちに迎撃を開始した。
太平洋戦争のように、壮絶で激しい撃ち合いとなった。
空に浮かぶ戦闘機がいっせいに機銃を乱射する。
だが、その怪物はまさに木星そのものであった。何もかもを優しく受け入れ、ダメージを感じさせない。
その怪物が放つ、とても細くどこまでも届くような、「水鉄砲」が当たればたちまち壊れてしまう。
水圧が凄いとどんな物でも断ち切ってしまう、という迷信染みた物を今改めて感じる。
「オハヨウ。オハヨウ。オハヨウ。オハヨウ。オハヨウ。オハヨウ。オハヨウ。 ゲンキ?ゲンキ?ゲンキ?ゲンキ?ゲンキ?ゲンキ?ゲンキ?ゲンキ?」
その怪物から、無機質な声のようなものが聞こえる。
chaoを操れる参加者も、ここぞとばかりに応戦する。
ここに、怪物×人間の図が完成した。
だが、その図は見る見るうちに地獄絵図へと変わっていく。
ガラスが急に冷やされると壊れるように。
カラスがなりふり構わず飛んでいくように。
必然とすら感じるのがその光景だった。水鉄砲の、戦闘機への命中率は上がっていく。
腕慣らしが済んで、これから本番だと言うのか。
餅から少しだけ飛び出しているような、そんな手から水が出ていた。
しかし、その手がもう一本増えたのだ。
二本の水鉄砲が絶え間なく戦闘機を襲う。
間も無く、空にはなにもいなくなった。
どこの国でも、1970年から1995年には悪質な犯行が相次いでいた。
1人で三桁の人間を殺した人間も、この年代に当てはまる。
一瞬にして何十万人もの命が奪われた、米国から日本国への原爆投下は例外であるが。
この事件が歴史に刻まれるのも時間の問題だろうか。
写真を撮り、国へ送信している者もいる。
すぐに支援部隊が来るだろう。
自分含め、数人。いや、何十人という単位だろうか。
隙を伺ってその場から逃げ始める。
もう帰れないんだ。まだこのイベントは終わってない。
chaoによって闘志が掻き立てられている今、後者の考えを持つ人間が多数だった。
なぜか、怪物はchaoを持っている人間を狙わない。
分かったことがあるのはそれだけだ。
いや、本当は戦闘機の操縦士も持っていたのかもしれないが。
誤射した水が、誰かをすり抜けて後ろの捜査官に当たったのを"緑化"は見た。
当人も不思議がっていた。それが不思議だった。
緑化は走り出した。
既に崩壊している人とテープのバリケードを超えて。
chaoすら歯が立たないという。本当にそうなのだろうか?保身に走る直前にしか、撃たないと決めている者もいるだろう。
みんな狐になっていた。それから眠りに入った。
しかし、奴は集められた中にはいなかった。
起きて、すぐに消えたんだろう。
"夢幻"だ。奴の能力は保身ながら、攻略法を探すまでの道のりを見つけることができるはずだ。
だが、着生らがいた店には既に人の姿は無かった。