10-幸福-5

"僕の王子様は白馬にまたがってるんじゃないな"
"夢が見たい、夢が見たい、夢が見たい"
"あれ?何の夢見たんだっけ?"
もう一発、捜査官が引き金を引く。
倒れている捜査官の銃を使った。互いに尊敬しあい、協力しあう。
分かっているのだ。こいつの銃ならこいつは黙らせることができる。
殺しはしない、ただ単に威嚇射撃なだけだ。
横に少しずらして撃つ。これは簡単に撃てるのだ。
今度は腕を撃つ。またかかられたらたまらない。
自分も腕で行けばいいのだが、一般人相手に実力を試しても何にもならない。
栄養失調であったり、具合の悪い彼が相手。銃でけん制するだけでいいのだ。
だが、彼の胸に銃弾は飛び込んできた。
事実上、彼は死んだ。

もはや何がなんだか分からない。孤児は大きく泣き叫んでいる。
どうしてだろう?しらないおじちゃんが、おまわりさんにうたれた。
捜査官は自分の体が震えていることに気づいた。何をやっているんだ?同じ穴のムジナじゃないか。
「これは何か違う、絶対に違う」
気の抜けた顔で震え続ける捜査官を見て、孤児の震えも一層高まる。
これは運命なのか、"chao"の気まぐれなのか。
この件は、彼が全て操作していることだ。
暴走状態の"chao"は、主に存在をアピールする。
アピールした後はコントロールできるのだが、そこが問題なのだ。
"致命傷・重傷・軽傷を全て避ける暴走状態"から、"致命傷・重傷・軽傷を全て当てることのできる能力"へと変化していたのだ。
彼の、平穏な性格を踏みにじるかのよう。
前者が彼の栄光であり、後者が彼の虚栄である。
そして、"chao"の自覚の本当の正体とは?この先明かされることだが、これで分かることが一つある。
"意識"が関係していること、それだけなのだ。
潜在する意識なのか?植えつけられた意識なのか?それは明らかでない。
自分が自分であるための第一歩を自分へと再認識させる。
人間の美学は、真には存在しない。
今回の件は、一体誰のせいなのだろうか?
いや、損はしていないはずだ。死ねたのは本望なのだから。それなら、なぜこうも後味が悪いのだ?
そう、孤児と捜査官の存在だった。
捜査官は泣き崩れ、その場に倒れこんだ。
何が悪いのだろう?結果、救えてるではないか。彼は。幸福を持った彼は、最後まで幸福だった。
捜査官も人がよかったのだ。栄華のために、彼は散っていっただけだ。そう思った。
孤児は救われるべき存在だった。それだけだ。
現地から報告書が送信された際、彼は考えた。"chao"って面白そうだ、自分にも備わるだろうか?
今はそんなこと、一つも思わない。いや、救えるなら救えるで、備わってほしいのだ。
心を救ってほしい。けれど、今はそんなことは一つも思えないのだ。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第238号
ページ番号
38 / 40
この作品について
タイトル
「マスカレードと世界観」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第224号
最終掲載
週刊チャオ第250号
連載期間
約6ヵ月2日