10-幸福-4

彼の話には続きがある。
きっと、快く思えない話だ。
彼のミスは、「書き間違い」によるもの。推敲なんてお手のものであった彼は、事実簡単なものでも一回最初から目を通しておかないと気がすまない。
それが原因で、遅延が発生した例がいくつかある。
彼がまだ、完璧でなかった頃の話だ。
完璧な状態でミスが発生することは完璧とはいえない。だが、彼は完璧だった。
そう、「部下が上司である彼の書類に手を加えたこと」と「書き間違いによるミス」が混同して、今の状況となった。
何か変だな、と感じるのはこの前者の影響だろう。
部下が彼の地位を妬み、落とそうと覚悟した結果だ。
同時に、その訂正箇所は行動の振るえやらで、とても本人の字には見えなかった。
それを彼は判断した。だからこそ衝撃があったのだ。
自分がそういう扱いをされるなんてと。いろいろなことが頭を巡った。
これは、快く思えない話だ。
彼の話には続きがある。
彼が幸せになる物語。彼だけの物語。
近くで、子供の悲鳴が聞こえた。
そう、この殺し合いは年齢は制限ナシなのだ。
孤児院から連れて行かれたかわいそうな子。その孤児は、何も悪くない。
これがトラウマになる可能性だってある。ここに自分から来たいだなんて子供が思うか?
どう見ても10歳未満。無理やり、としか思えないのだった。
"俺は今、死なない。あの子を助けてやれるならそれでいいじゃないか"。
子供の周りに捜査官が二人。いける。"chao"に頼らなくてもいけるんだ。
捜査官の一人に殴りかかる。予想外の攻撃は、思ったよりも深いダメージを与える。
倒れこむ捜査官。そして、その光景に同様する孤児と捜査官。
状況を飲み込むのが遅い。いや、誰だって処理に困るだろう。
余程慣れていないと順応できない。もう一人も、勢いよく地面に叩きつけられた。
恐らくは全員召集。やはり国は黙っていないのだろう。誰が密告したか。
タチの悪いイタズラは、一部の人には酷く恨まれる。暇であり、そういった性格だからだ。クレーマーになるのもそういった一部の人だ。
「殺し合いをしましょう」と言われて簡単に出て行く者の中には単に賞金目当てであるとかそんな理由があった。
彼はどうだ?殺されに行ったんだ。
孤児が震え上がっている。捜査官は甘い言葉で召集を誘ったのだろうか。
現実的な問題、おまわりさんがしらないおじさんになぐられてる。
孤児は泣き出した。それでも捜査官を殴り続ける彼。
もはや何が目的が分からない。捜査官が完全に動かなくなった時点で、彼は真の一人ぼっち。
その時だ。捜査官の一人が立ち上がり、彼に銃を向ける。
「許される行為ではない、これは淘汰される行為だ」
既に安全装置を外している。
正義のため?それは今何の効力もなさない言い訳にすぎない。
孤児のため?それは今それ自身の表情を見れば分かるではないか。
何も言わず、黙っていると捜査官が引き金を引いた。
だが、アクシデントが当然のように発生したのだった。
弾に、火薬が詰まりすぎている。
暴発し、銃は粉々になった。酷すぎる。何が酷いのか?わかるだろう?
手も当然壊れるわけだ。複雑骨折、火傷。酷すぎる。
自分が他人の幸運を吸ってしまっているのか?
社会は損と得が両立してるから成り立っている。そして、他の事にもそれが成り立っているのだ。
どちらにも得な条件は存在しない。何かが損をするのは当たり前だ。
例えば貴重な資源を分け合う。一見、損が無いかに思えるが裏には数多くの損を秘めている。
密かに狙っていたもの、分けられずに失望しているもの、実用化されなかったら、それを楽しみにしていた庶民。
誰かが損をするなら、誰かが得をする。"chao"は現実的だ。リアリティを持っている。
なぜリアリティが必要なんだ。彼は、心の底から考えた。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第238号
ページ番号
37 / 40
この作品について
タイトル
「マスカレードと世界観」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第224号
最終掲載
週刊チャオ第250号
連載期間
約6ヵ月2日