10-幸福-2

抽選の結果、彼は見事当選した。
本当に選ばれてしまったのか?住所はホームレス御用達の場所を記入したはずだ。
なのに、配達員が不思議がりながら持ってきた。
武器を持たないこと、場所などいろいろ書かれている紙。
そして、今彼はここにいる。
不思議なことに、島にはクモ迎撃の際に使われたと思われる銃がところどころに散乱しているのだった。
その一つをとって、自分に引き金を引く。
いくら引こうとしても、硬くて引けない。安全装置をはずしていなかったのだ。
ちゃんと装置を外し、意を決して引き金を引く。
人生もこれで終わりか。いろいろあったなと。走馬灯のようによみがえる。
おかしくはないか?引き金を引いたのに、まだ何かを思い出してるんだから。
そう、弾が一つも入ってなかった。空砲だ。いや、空砲にしても、火薬すら入ってない。
近くで"chao"による殺し合いが始まったが、こっちを見る直前に限って雨が強くなり、視界が悪くなる。
近づいて、話しかけようと思ったがその人の"chao"のせいか突然目の前からその人が消えた。
前後を裏返す。そういった能力だった。
そして、雨が突然強くなる。"彼は死ねないのだ"。
"幸運を身にまとう"。それが能力。
どうして生きることを望んでないのに"chao"が備わっているか?
それは、暴走状態にあるからだ。
身に付ければ、暴走状態が解け軽傷程度なら幸運で避けられるかもしれない。
暴走し、力が強くなってきている。捜査局の突入もあり、余計に死から避けることになっているのだ。
こんな仕打ち酷すぎる。死にたいんだ、死にたい。殺してくれ。
叫んだが、雨の音にかき消される。クモは無意識に雨を操作していた。捜査局に本物の雨だと錯覚させるため、演出をしていたのだ。
だが、捜査局だ。ここは街部分の最深部。
捜査官達が奥まで駆けつけ、近くにいた人を連行していったかのように見えた。
そして、こっちにも来たのだ。
手には既に、もう一丁拾い上げた銃を持っていた。
捜査官が彼を見つけた。見つからない方がおかしい。
不自然な位置にある人影。雨が弱くなっていく。まるで見つかるのをサポートしているかのように。
「全員、武器をこちらに床を滑らせるんだ。静かに床に伏せて指示を待て」
こんな不自然なところにいるんだからまだまだいるものだと考えたのだ。
そうでなくても、この警告はテンプレート。マニュアルだった。
捜査官は合計13人から18人はいる。
盾を持ち、彼を囲む。銃を持っているのに、それを渡さない。床にも伏せない。だからこそ囲んだ。
「聞こえているか?武器をこちらに渡すんだ。床に伏せ、指示を待て」
彼は喜んだ。殺してくれそうだ。もしかしたら、こいつらは従ってくれるかも。
そう思うと同時に、彼は銃を自らのこめかみに当てる。
「なぁ、君達。俺は今、引き金を引く。俺は死ぬと思うか?」
だが、この発言は挑発だと取られた。彼は本気なのにも関わらずだ。
「お前は命が惜しくないのか?公務執行妨害になりたくなければおとなしく指示に従え」
理解をしてくれない捜査官達を横目に、迷わず引き金を引いた。
気持ちのいい音が鳴り響く。だが、弾は出ていない。
六発弾が仕込める、そのマグナムの弾を全て見せながら、情け無さそうにうつむく。
「見たか?雨でダメになってるんだ。死ねない。こんなんじゃ死ねるわけがない」
銃を思い切り空中に投げ、囲んでいる盾に近寄る。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第238号
ページ番号
35 / 40
この作品について
タイトル
「マスカレードと世界観」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第224号
最終掲載
週刊チャオ第250号
連載期間
約6ヵ月2日