10-幸福-1

「馬鹿じゃない、正しいからやってる」
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捜査局による召集が開始した頃のことだ。
その荒れた時間帯、雨は弱まりつつあった。クモが休んでいるんだろう。
島が混乱していることを隠れ蓑とし、"chao"による攻撃を開始する者が出てきた。
その様子を見ている彼、幸運をもたらす"chao"を身に着けている者がいた。
彼は、死ぬためにこの殺し合いに参加した。
殺しが合法化されるこの祭典ならば、きっと自分を殺してくれるはず。
誰かの頭に、自分が残ってくれればと考えていた。
自殺だけは絶対に逃げる行為だと。そう思っていた。
まさか、殺してくれと言われて、殺してくれる奴なんてこの世にはいないだろう。
原因は、社会でのトラブルであった。入り組んだ、一つの結果。
自分の部下がミスを犯したらしく、そのミスの責任を被ることになった。
人がよかった彼は、快く責任を被ることにした。そもそも、責任をかぶること以外を選択することはできない。
嫌々承諾するか、快く承諾するか。彼は珍しい、後者だった。
しかし、後々そのミスの内容が発覚された。
それは、彼自身が提出した書類の一部が改竄されていたというのだった。
彼は自分に誇りを持っている。なんにでも慎重な、その性格をあの世にまで持っていくつもりだった。
その彼にとって、その事実は衝撃的だった。まさか、自分が?自分を疑ったのはその時が初めてだった。
部下が犯したんじゃない。自分だった。衝撃的な事実。それがきっかけで彼は閉じこもることになった。
外界からの連絡など一つも必要が無い。光さえ怖い。闇にまぎれていたい。
カーテンを締め切り、布団に包まり、糞尿をも垂れ流しで尚、布団にうずくまっていたのだった。
部屋に悪臭が立ち込める中、彼は嘔吐した。耐えられない。悪臭ではなく、あの事実に耐えられずに。
その悪臭が換気扇のわずかな隙間から漏れたのか、心配に思った近隣の住民が部屋を訪ねに来た。
そこはマンション。高級ともいえない、中間的なマンションだ。
事実、そこは安定した収入を持つ人。または、その妻との夫婦が主に住んでいた。
部屋を訪ねにきた青年が、戸を叩く。
「新聞、溜まってますよ。外出中ですか?」
中にいる彼は、睡眠すらあまり取らずにいたので目が充血し、目のしたにクマが出来、痩せこけて見える。
糞尿と嘔吐物が回りに立ち込める部屋を改めて見回すと、何をしているんだろうと改心しようともしたのだった。
それから、青年の一声が彼を救ったことになる。
部屋をキレイにし、これ以上迷惑をかけないようにとマンションから出た。
マンションの大家、住民もこれまた人がいいもので執拗なほどに彼を引き止めた。
背中だけを見せ、涙を浮かべながら。声も漏らしそうになりながら、無理やり渡されたカンパ金でマンションを出ることになる。
また戻ってきてくれるかい。一人でも欠けると寂しいよ。
暖かい声はどんどん遠くへ消えていく。冷ややかな視線が彼を見る、冷たい世間へとまぎれた。
外出する際に持っていった、溜まっていた新聞。
世間的にも、優良とされている新聞だった。
極端な思想を植えつけようとせず、ただ事件を追いかける。
まさに、鑑ともいえる新聞社だったのだ。
ホームレス生活も悪くないと、新聞を広げてみたら一枚のチラシが飛んでいった。
普段は特に気には留めないが、やることが無い。
チラシを追いかけ、手にした。
そこには、"殺し合い"の宣伝が堂々と書かれていたのだった。
なぜ、優良である新聞にこんなものが挟まれているのか?
特に気にはしなかったが、実際はこう。
新聞配達の際に、工作員が丁寧に入れていたというだけのことだ。
もちろん、この工作員は大勢。いずれも、"逆流"サイドに雇われているか同じ地位にいるかだ。
やることも無い。何をしているかよくわからない自分にうんざりしている。
ここで殺されたい。そう思って、殺し合いに参加したいとポストに投函したのだった。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第238号
ページ番号
34 / 40
この作品について
タイトル
「マスカレードと世界観」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第224号
最終掲載
週刊チャオ第250号
連載期間
約6ヵ月2日