9-背理-3
聖職者は、捜査官に向かってジェスチャーをする。
人差し指を、口の前に動かして、そして出入り口の方向を指差した。
"しゃべってもいいか?"。そういっている。
捜査官は親指を立てて、頷いた。"あぁ、いいよ"。
言葉選びを慎重にしないといけない。だが、攻撃はあちらからするとできないはずだ。
もしかすると間欠泉は一度に二回放てるのかもしれない。慎重にならなくてはいけない。
「なら、私たちはここから出ることにしよう。それでいいな?」
捜査官は一瞬慌てたが、気を取り直した。確かに、その方がいい。
その時のことだった。明らかに、先ほどの声とは違う声が叫んでるのを聞き取れた。
そして、その声は近づいてくる。
何をしようが遅い。大きな音を立てて扉が開いた。
「全員、武器をこちらに床を滑らせるんだ。静かに床に伏せて指示を待て」
テンプレートのような発言。全員、とはいうがぱっと見一人なはず。
侵入者は二人なのか?いろいろな憶測が頭の中を乱舞する。
その様子を見て、捜査官が口を開く。
「俺だ。番号まではいいだろう。今そのタイヤを除ける」
そういって、タイヤや鋭利物を全て後方へと吹き飛ばした。
両手を上げる前に、手を開いて下に伏せるようにジェスチャーをした。そして、出入り口の方へ歩いていく。
「立てこもりのような状況だった。こっちにいるのは信頼できる聖職者さんだ。
どの宗教なのかもわからないし、ここにいる理由も問いただしてない。いろいろな経緯で分かったことさ。そっちにいる人も恐らくは敵意を持ってはいなかったろう。俺たちを警戒していただけだ」
そう、連邦捜査局の突入であった。
すぐさま、無線機で連絡を取り合う。電波が届かないようで、部下に無線機を持って何かを伝えた。
「床に伏せてしばらく待っていてくれ、悪いな」
それから間も無く、相当な威厳がにじみ出ている捜査官がやってくる。
「顔を上げてくれ」
連絡したのは地上にいて、衛星経由で連絡をしていた捜査官だ。
だが、狐から復帰してまだ寝ている状態。上では、その捜査官との認証を既に完了していた。
手元にある二枚のうちの一枚をまじまじと見つめ、時々捜査官の顔も見る。
どうやら、二枚だということは二人来ているらしい。聖職者からすると一人、今横にいる人しかわからないが。
「わかった、ご苦労だった。すぐチョッキを着てくれ。
既にこちらは主催者の特定が済んでいる。自宅から証拠も数々と見つかった。
その情報の伝達も含め、後ほど話すとしよう。さぁ、立ってくれ」
捜査官が外に出るのを確認すると、部下が聖職者と侵入者がまとまって伏せることを提案した。
そして、出入り口横に並んで伏せることになった。
後から来た捜査官。既に司令官のレベルだろうか。
彼は既にここからいなくなっている。その部下が、三人程度いるくらいだ。
外にも一人ついたらしい。無線機はその人が持っていった。
さて、"chao"の存在に感づいてはいるはずだ。連絡が行ったとなれば、"chao"のことも連絡されているはず。
どんな報告かはわからないが、この状況からじゃ"chao"を使うのは危険すぎる。
この殺し合いはやはりマークされていた。それどころか、主催サイドさえ追い詰めていた。
さて、どうする。それだけが問題である。おとなしく従う方がいいようだ。
話も何も無く、時間だけが過ぎていく。
しばらくして、やっとその寡黙な雰囲気から脱することができた。
外から一人が入ってきて、耳元で何かを伝える。
やがて、こちらを向いて捜査官がしゃべり始める。
「参加者を一箇所にまとめる。立ち上がって、この上にある台場へと歩け」
捜査官たちに連れられて、この倉庫から出ることとなった。